【短編小説】徒労の人 ~なぜ書くのか~ 第6話
第6話
最寄りの駅で電車を下りる。改札を出たところで外を見ると、細かい雨がぱらぱらと降り出していた。鞄から折りたたみ傘を出し、夜の歩道を歩き出す。
雨足はどんどん強くなっていく。どんなに水溜りに気をつけても、パンツの裾が濡れていくのがわかった。時おり足首に貼りつき、たまらなく不快な感触がする。
『ちゃんとそういう趣味があるっていいですね』
雨で街の音が遮断され、代わりにさっきのイケメン錦戸の言葉が耳の奥に響いた。あのひと言で、ふわふわと浮かれていた気持ちが