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【短編小説】徒労の人 ~なぜ書くのか~(全9話)+あとがき

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「犯人はあなただ!」「さあ、聖杯を取り出せ」「紫式部になりたい!」限界まで潜ったその先にある、指先に触れたものをつかみ取れ。あなたは書くために生まれてきたのだから。
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#創作

【短編小説】徒労の人 ~なぜ書くのか~ 第2話

   第2話 「あのぉ……愛馬センパイ、ちょっといいですか?」  定時まであと五分を切ったところ。開いたパソコン画面は単なるカモフラージュで、明日提出することになっているデータはもう保存済み。心の中ではカウントダウンの準備が始まっている。  時計が定時を知らせれば、ゲートを開けられた競走馬のようにロッカーに向かい、真っ直ぐに家に帰るだけだ。  それなのに、このタイミングで後輩から声をかけられるとは、嫌な予感しかしない。ましてこの後輩は、ハッキリ言って仕事ができない。

【短編小説】徒労の人 ~なぜ書くのか~ 第8話

   第8話  がくんと身体が揺れ、テーブルについていた両肘が横に滑った。パソコンに頭を突っ込みそうになり、その反射で今度は背中の筋がばねのように縮む。  押し出された空気が声帯を震わせた。悲鳴ともつかない、おかしな音が口から洩れ、それが声が耳から入ってきたことで、しびれたようになっていた肉体に感覚が戻った。ここはどこ? わたしは誰?  たった今見たものは、ただの夢なのか。妙に鮮明で、生々しい感覚が身体に残っている。  小さな貸本屋の薄暗さ、古い本のかびの匂い、手にし