【短編小説】望月のころ 第11話(最終回)
第11話
マンションのエントランスで、僕はポケットからハガキを取り出した。部屋番号を確認してからボタンを押す。
「はーい」
その声が、三十年という長い時間を一瞬で溶かした。僕が名乗ると、「どうぞ」という声と共にオートロックが開く。
エレベーターの中で、僕は背面の鏡に映る自分の姿に目をやった。
生え際にぽつぽつと白いものが混じる。特にサイドのあたりは多く、固まりになっていた。
輪郭がたるんでいるのがわかる。目頭から伸びる皺は頬を斜めに縦断しているし、心な