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【短編小説】望月のころ(全11話)+あとがき

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透、武、さくら、環は高校の同級生。卒業してから10年、武とさくらが結婚し子供が生まれてからも四人組は親しくしていたが……西行法師の詩から始まる、一途で切ない恋愛小説。
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#二人呑み

【短編小説】望月のころ 第3話

   第3話  武から連絡があったのは春の初め。花冷えの頃だった。 「どうせヒマだろ? 今夜呑もうぜ」  いつくかの〆切を抱え、ここ一週間はまとまった睡眠も取れずにいた。やっとパズルのピースがすべて揃い、なんとかして組み立てたそれを暗記するほど読み返し、推敲を重ねて、やっと担当に送ったところだった。 「どうせヒマ」という言い方はいささか腑に落ちなかったが、空っぽの冷蔵庫の前で空腹を抱えていたところだったので即座にOKした。  待ち合わせよりもかなり早めに家を出る。日は