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第2話 年末から正月にかけて帰省した。実家までは車でほんの一時間ほどの距離で、両親とも健在だ。 親孝行のためと思って二泊したが、退屈すぎて三日目の午前には自分のマンションへ戻った。 エントランスのポストを開けると、輪ゴムにくくられた年賀状の束があった。 『あけましておめでとうございます』 エレベーターのボタンを押し、武とさくらと操の親子写真に目をやる。 『クリスマスパーティーでは本とおもちゃをありがとう。操はすごく気に入って毎日読んでいます』 さくらの
第5話 キッチンの明かりだけを灯した薄暗いリビングに、コーヒーメーカーの音が響く。窓の外は暗く、雨がしとしとと降り続けている。 眠れなかった。本を読もうとしても、映画を観ようとしても、なにも頭に入ってこない。 どうせかき消すことができないならと、コーヒーカップを手に、窓ガラスに貼りついた水滴を眺めていた。 「ありがとう。ホントに助かっちゃった」 そんな声が頭によみがえる。後部座席のシートで、さくらは僕に向かって両手を合わせた。 「電車の中でこの子が寝ちゃ