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【短編小説】望月のころ(全11話)+あとがき

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透、武、さくら、環は高校の同級生。卒業してから10年、武とさくらが結婚し子供が生まれてからも四人組は親しくしていたが……西行法師の詩から始まる、一途で切ない恋愛小説。
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【短編小説】望月のころ 第2話

   第2話  年末から正月にかけて帰省した。実家までは車でほんの一時間ほどの距離で、両親とも健在だ。  親孝行のためと思って二泊したが、退屈すぎて三日目の午前には自分のマンションへ戻った。  エントランスのポストを開けると、輪ゴムにくくられた年賀状の束があった。 『あけましておめでとうございます』  エレベーターのボタンを押し、武とさくらと操の親子写真に目をやる。 『クリスマスパーティーでは本とおもちゃをありがとう。操はすごく気に入って毎日読んでいます』  さくらの

【短編小説】望月のころ 第5話

   第5話  キッチンの明かりだけを灯した薄暗いリビングに、コーヒーメーカーの音が響く。窓の外は暗く、雨がしとしとと降り続けている。  眠れなかった。本を読もうとしても、映画を観ようとしても、なにも頭に入ってこない。  どうせかき消すことができないならと、コーヒーカップを手に、窓ガラスに貼りついた水滴を眺めていた。 「ありがとう。ホントに助かっちゃった」  そんな声が頭によみがえる。後部座席のシートで、さくらは僕に向かって両手を合わせた。 「電車の中でこの子が寝ちゃ