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【短編小説】ニシヘヒガシヘ(全7話)+あとがき

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2024年3月に行われた豆島さんの企画『夜行バスに乗って』への参加作品。「帳面町からバスタ新宿まで」の夜行バスに乗った怪しい人物は誰だ!? そして、主人公の抱える事情とは。
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【短編小説】ニシヘヒガシヘ~夜行バスに乗って~第6話

   第6話 04:00 〇△サービスエリア(休憩20分) 「〇△サービスエリアに到着です」  眠っている乗客たちのために、運転手が囁くように言った。駐車場に入ったバスがスピードを落とす。  不意に誰かが立ち上がった。運転席へ向かって、足音も荒く駆け寄る。 「停まるな!」  あたしは驚いて首を伸ばした。他にも、起きていた人たちが声のする方に顔を向けている。 「このまま出発しろ!」  その声に聞き覚えがあった。まさか。  背もたれにつかまりながら、動くバスの中でシート

【短編小説】ニシヘヒガシヘ~夜行バスに乗って~第7話(最終回)

   第7話(最終回) 06:00 バスタ新宿 到着 「ねえ、この人本当に大丈夫なの」  キーンとした甲高い声が空気を破った。 「こんな体勢のまま、ずーっと眠ってるんだけど」  カツンカツンとなにかが打ち鳴らされる音が、耳の奥を震わせる。重くて開かない瞼の裏に、細いブーツのかかとが浮かんだ。 「心配はいらない。彼女はもともと寝不足だった」  聞き覚えのある低い声がした。あの不思議な黒い帽子をかぶった、背の高い男性だ。  顔を覗き込まれているとわかっていても、身体はま