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急に増えたやん2024

 大阪の環状線に、鶴橋という駅がある。
 JRの大阪環状線の輪っかの右らへん、近鉄電車が奈良の方からブスッと突き刺さってるところ。
「駅のホームに着いた瞬間に、焼き肉の匂いでいっぱい」で有名な鶴橋。(たぶん時間帯によります)

 鶴橋は大阪城の南。ひとつ隣の玉造という駅は、大昔に勾玉作ってた位の時代に由来する地名。玉造には、大阪夏の陣で作られた真田丸にちなんだ真田山がある。鶴橋にも、やはり万葉の時代から使われている猪飼野という旧地名がある。

 鶴橋駅の改札を出ると、国際マーケットと呼ばれる闇市由来の由緒正しきダンジョン(地下迷宮のような商業空間)が広がる。屋根のない(換気のよい)焼き肉店エリア、ガード下はキムチ、ホルモン、豚足、チヂミ、キンパ、トッポキなどを店先で売る屋台型の食材店、飲食店。隣の筋には衣料品店が並ぶが、食料品店の間にチマチョゴリを並べる店があったりと、混沌としている。ハングルの看板、訛りのあるオモニたちのコテコテな大阪弁の呼び込み、ぽっと青空が見える広場の屋台。伊勢直結の近鉄鮮魚列車の恩恵か、魚屋や海鮮食材を扱う店も多い。

 鶴橋のダンジョンを東に抜けて、疎開道路に出る。韓国系のアイドルショップ、韓国系ファストフード店、スイーツ店、雑貨、ファッション、雑貨など扱うお店が点々と並ぶ。古くからの朝鮮食材店ではなく、「最近の韓国」を消費できるお店、という印象だ。ハングルしか表記しない看板もあって、売っている食べ物の写真やイラストもあるけれど、そもそもそれが何なのかよく分からない。500円が「5.0」と表示されていたりしていて、どのぐらい意図的に韓国っぽさを演出しようとしてるのか分からないけれど、とにかく異文化体験であることは間違いない。

 疎開道路を南に10分ほど歩いて、小さな交差点を左(東)に曲がれば、「大阪コリアタウン」こと御幸森商店街だ。ずいぶん変わったなぁという印象。アイドルショップ、カワイイ雑貨やスイーツのお店が並び、通りの雰囲気も客層も、原宿の竹下通りさながらという感じ。かつて朝鮮市場と呼ばれた頃からの、キムチやホルモンを扱うお店と、新しくてカワイイお店が混在する。新しいお店には、ハングルが目立つ。

 20年ぐらい前から鶴橋~御幸森商店街を何度かウロウロしてきて、2024年、コロナが明けて久しぶりに来た。お店やお客さんが増えて、ポップでカジュアルなお店が増えたことにも驚いたけれど、何より「ハングル増えたなぁ」ということが、一番印象深かった。

 逆に、かつてはなぜハングル表記をしていなかったのだろうか、ということに考えをめぐらせてみると、少し複雑な気持ちになる。朝鮮市場以降、キムチやホルモンのお店ばかりだった時代、御幸森商店街は「モノを消費する空間」だったはずだ。2000年代以降の韓流ブームの頃もなお、この町は「韓国のモノ」だけを売る場だったように思う。ところが今は違う。「韓国の若者文化の空気を帯びた空間」に蚕食され、町の空気が人を集める時代が到来したのだ。

 日本人はハングルが読めない(ハングルを勉強したいという若者が増えた印象はある)。キムチを買いたい人は、本格的なキムチを買いに来るのであって、韓国っぽい雰囲気を味わいに来るわけではなかったはずだ。ハングル表示をすることに、商業的な意味を積極的に見いだせない時代が長く続いていたのだと思う。

 そして現在は、ハングルが読めるかどうかではなく、韓国っぽい感じを演出する、容易かつ重要な記号としてハングルが用いられているように思えた。「空間の意味が変わった」という言い方ができるかもしれない。若年世代への韓国文化の浸透度合いを知るにつけ、韓流ブームという言葉では説明できないような、もう少し大きな変化が生じているように思える。在日コリアンの文脈に、現代韓国の若者文化が大きくクロスオーバーしてきて、どうにも座り心地の悪さようなものを感じてしまう。こうした変化を受け止めて大きな波にしていおくのも、「エスニック・バイタリティ」なのだろうか。

以上、「ハングル急に増えたやん」という感想を持ったフィールドワークの振り返りでした。



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