いつもここにあるお店
(河北新報2024/2/1『微風旋風』掲載のディレクターズカット版)
家業に携わって20年以上が経った。伯母と母と叔父がきょうだいで始めた小さなバーは、まだ飲食店の少なかった国分町に昭和44年に創業した。
折しも日本は高度成長期である。好景気の波に乗り、文字通りの”姉妹店“を展開して長い間2店舗で営業を続けてきた。13年ほど前にわたしと従弟が後を継ぐこととなったため、1店舗に統合し、今に至る。店はこれまで、バブル景気とその崩壊、そこからの終わりの見えない不況、東日本大震災をなんとか乗り越えてきた。
ところが、この度の新型コロナウィルスによる混乱は、これまでの艱難を遥かに凌ぐものがあった。営業自粛要請や酒類提供の禁止が国や県から通達され、営業自体ができなかった。国分町の灯が消え、未知のウィルスに怯えながら暮らす日々が続いた。
2020年から2021年にかけて断続的に行われた営業自粛や時短の要請により、飲食店は疲弊し、たくさんの店が閉店していった。当店は、何よりも「店が存続すること」を一番に考え、現在の小ぢんまりした店舗に移転をした。
旧い店にとって、移転は非常に大きな決断である。旧来のお客様はご高齢の方も多いため、新しい店舗にも足を運んでくださるだろうか、これまでの店構えが変わっても気に入ってくださるだろうか、と、不安だらけであった。
ところがである。蓋を開けてみれば、旧いお客様ほど移転を応援してくださり、また新しい店舗を気に入ってくださった。昭和44年の開店当初から通ってくださっているお客様も多く、現在の最高齢のお客様は93歳、いつも美味しそうにウイスキーを召し上がっている。かと思えば、「ネット検索でヒットしたので来ました」という若者や外国の方々の来訪も、コロナ前に比べて格段に増え、20代のカップルと80代の常連さんが会話を交わすなどという光景も増えてきた。
伯母と母と叔父が真心で営んできた場所である。お客様には「行きつけのお店がいつもここにある」という安心を感じていただけたらと思っている。先代同様、わたしと従弟も、家族のような友達のような近しい心持ちで、日々、お客様をお迎えしている。
家でも職場でもない、もうひとつの居場所としてここを選んでいただけていることに感謝したい。
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