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【日孫】スサノオと倭人のトーテム【神話編1章~4章】〜古書から日本の歴史を学ぶ〜

※このnoteはYouTubeで視聴することも出来ます。

こんにちは、今回は契丹古伝の神話編についてお話しさせて頂きます、宜しくお願い致します。

[契丹古伝]という古文書については、過去に一度動画で全貌を大まかにお話させていだだきましたが、少し復習していきます。

契丹古伝という古文書は明治38年(1905年)、浜名寛祐という人物が満州奉天のラマ寺院に保管されていたものを書写し、研究発表した古文書です。

作者は耶律羽之(うし)という人物で契丹の分国であった東丹国の役人です。
また、内容の一部に渤海のルーツを誇らしげに紹介している部分があることから、編纂者の中には渤海出身の史官が多かったことが推測できます。

古文書の書名は原本には書かれていなかったため、第一研究者の浜名氏は「日韓正宗溯源」や「神頌叙伝」、「契丹秘伝」などのタイトルを付けましたが、その後田多井四郎治氏は[契丹古伝]という名称を付け、浜田秀雄氏は[契丹秘史]、鹿島曻氏は[倭人興亡史]や[北倭記]というタイトルを付けています。

後に浜名寛祐氏の「日韓正宗溯源」が復刻版として出版されましたが、その時のタイトルは「神頌契丹古伝」とされ、この[契丹古伝]という名称が広く知れ渡ることとなりました。

[契丹古伝」の内容は、ほとんどが古史文献からの引用で、「何々に曰く」として文章の出処をはっきり示しています。用いられた文献は次のようになっています。
耶摩駘記(やまとき)
神統志(しんとうし)
氏質都札(ししつさつ)
賁弥国氏洲鑑(ひみこくししゅうかん)
汗美須銍(かみすち)
辰殷大記(しんいんたいき)
西征頌疏(せいせいしょうそ)
洲鮮記(しゅうせんき)
秘府録(ひふろく)などから引用しています。
これらの文献のほとんどは現在失われています。

[契丹古伝]を読む時の注意点としては、多くの文献を引用しているため同じ国、部族などの名称も引用文献ごとに漢字が異なるので注意が必要です。

また、第一研究者の浜名寛祐氏は当時、韓国併合を擁護する立場で[契丹古伝]を解読していた日韓同祖論者です。

共通の祖先から出た日韓両民族は韓国併合を機会に再び融合して一体となり、東洋ひいては世界の安定に貢献せねばならないという信念を持ち[契丹古伝]解読しているため、後の研究者である浜田氏や鹿島氏と解釈が全く違う箇所が多々見られます。

[契丹古伝]の主人公は東大神族(しうから)(辰沄固朗)という古代の有力な民族で、第4章にはシウカラの民のことを称して[タカラ]と呼んでいたことが記されています。

[契丹古伝]は滅亡まもない渤海で成立したため、契丹の正統を主張する傾向が強く、契丹族こそ日神(太陽神)の神族であるという主張が所々に見られます。

東大神族は中国大陸では漢民族以前の先住民であり、中国の神話や伝説的な始祖である三皇五帝も東大神族出身であったと記されています。

[契丹古伝]にはいわゆる中華思想の正史とは全く異なる歴史が展開されていて、東大神族と漢民族との抗争がさまざまな文献を引用しながら記されています。

※頌=功績や人柄を褒め讃える言葉

今回は全部で46章あるうちの1~4章を見ていこうと思います。

因みに原文には章は割り振られていませんが、便宜上、浜名寛祐氏によって神話編20章、歴史編20章、古頌などが6章の合計46章が割り振られました。



第1章の[神鏡]から現代語訳を読んでいきます。

曰若稽諸傳有之曰
神者耀體無以能名焉
維鑑能象故稱鑑曰
日神體讀如戞珂旻

「神は光り輝く存在であり言葉では表しえない。ただその輝く耀体を象ったものがある、それが鑑(鏡)である。よって鏡を日神体といい、それを戛珂旻(かがみ)とよんだ」とあります。

【解説】
契丹民族をはじめ、突厥や、ウイグル、蒙古などは君主のことを[可汗(カカム)]と称しています。チンギスハンのハーンはカアン (qa'an / qaγan) から後にハーン (хаан / khaan) に訛った言葉です。

浜名氏の解説では、この[可汗(カカム)]の語源は、君主を日神(かか)の末裔だとして地上における日神をその身に宿したもの、という考えから生じた敬称だとあります。

そして日本の神話では少名毘古那神(すくなびこなのかみ)が出雲の地まで乗って来たと伝承される[天之羅摩船(あまのかかみふね)]とは可汗が派遣した可汗船のことで船中に鏡を祀った船、日神の船だと解されています。(浜名解)

鹿島氏の解説によれば、第1章はこの人々のトーテムが青銅鏡であるとして、青銅文化時代以降のことを記しているといいます。

三種の神器の筆頭が神鏡であることは倭人のトーテムが青銅鏡であることを示していると解説されています。



第2章の[日祖東大]にはこの様にあります。

恭惟日祖名
阿乃沄翅報云戞靈明
澡乎辰云珥素佐煩奈
淸悠氣所凝日孫内生

「恭(うやうや)しく惟(おもん)みるに、日祖の名は[アノウシフウカルメ]である。[シウミスサホナ]で禊をされ、清悠の気が凝り固まるところに日孫が誕生した。」とあります。

【解説】
この日祖の[アノウシフウカルメ]のことを浜名氏はアメノオオヒルメのことだと解しています。

一方で鹿島氏は[アノウシフウカルメ]のアノは前期ヴェーダ時代の五族にあるアノ族(アヌ族)だと解しています。

アノ族のアノは太陽という意味で、古代インドの聖典「リグヴェーダ」にも登場していますが、メソポタミアの天空の神アヌがルーツで、アノ、アヌ、アメは同義である、としています。
インドのアノ族(アヌ族)は前期ヴェーダ時代に起こった十王戦争という戦いで敗北後、歴史上から消えています。

[アノウシフウカルメ]のカルメのカ[戛]は第19章ではヒ[日]と同義で使用されているためカルメはヒルメとも読めます。

残りのウシフウですが、浜田氏の解説では次の第3章にある日孫[アメミシウクシフスサダン(ナ)ミコ]のシウクシフとウシフウは同義であるとして[東大国君霊]このような漢字を当てています。



次の第3章(日孫)には産まれた日孫についての説明があります。

日孫名阿珉美辰沄繾翅報順瑳檀彌固
日祖乳之命高天使鷄載而降臻
是爲神祖蓋日孫讀如戞勃
高天使鷄讀如胡馬可兮辰沄繾翅報
其義猶言東大國皇也

「日孫の名は[アメミシウクシフスサダン(ナ)ミコ]、日祖はこの子を育てコマカケに命じて降臨させた、これが神祖である。日孫はカモとよび、[高天使鶏]はコマカケと読む、シウクシウは東大国皇(しうくほ)を意味する。」
とあります。

【解釈】
「アメミシウクシフスサダン(ナ)ミコ」のアメは[隋書]倭人伝の倭王の姓[阿毎(あめ)]であり、
シウクシフは先程の説明通りで、最後のスサダン(ナ)ミコは浜名氏、浜田氏、鹿島氏共にスサノオと解釈し、浜田氏はスサノオを族名だとし、鹿島氏は襲名された王名のスサを表すと共に「檀君のミコ」を意味しているため「檀君桓因の子桓雄」ということになる、と解説しています。


スサはアケメネス朝ペルシャの王都スーサですが、元はエラム人の都で、ダンはメソポタミアで信仰されていたダゴン神で、そのミコが日孫の名ということになります。

殷族も淮夷(わいい)も共に檀君神話を持ち、殷の宗主国であったイシンの人々もダゴン神を奉じていました。



続いて第4章の神祖族を見てみます。

族延萬方廟曰弗莬毘廷曰蓋瑪耶
國曰辰沄繾稱族竝爲辰沄固朗
稱民爲韃珂洛尊皇亦謂辰沄繾翅報
神子神孫國于四方者初咸因之

「日孫の一族は万方に展開した。一族の聖なる廟(びょう)はフトヒ又はホトヒといい、宮廷はコマヤ、国をシウクといい 一族の名称をシウカラ、そしてその民はタカラと呼ばれた。その皇(王)を尊んでシウクシフという。神子・神孫は世界の四方に国を建てたが、その元はすべて日祖より出ている」
とあります。

【解説】
日孫というのは第2章で登場した「アメミシウクシフスサダン(ナ)ミコ」のことで、この一族が万方に展開したとありました。

聖なる廟(びょう)とは祖先の霊を祀る建物のことですが、この名前をフトヒ或いはホトヒとしており、「太霊」の義と解されています。

宮廷の名称コマヤとは、第3章のコマカケのコマと同義であり漢字では高天と書いてコマと読みます。コマヤのヤは宮のヤや屋根のヤと同義です。

国をシウク、一族をシウカラとありますが、原文では「辰沄繾」「辰沄固朗」このような漢字ですか.浜名氏はそれぞれ「東大国」「東大神族」このような漢字を当て解釈しています。
民のことをタカラと呼ぶのは、上古の日本でも国民を称してオオミタカラとしていた時代もあり、一族のことを「ヤカラ」と言うのも語源は同じです。

鹿島氏の解説ではシウカラのシウは逆にするとウシ(禹氏)であり、ウルクや夏王の禹を表すといいます。

以上の1章から4章が[契丹古伝]の神話編の導入部分になります。

契丹族の日祖である「アノウシフウカルメ」は「シウミスサホナ」で禊をして日孫が誕生し(第2章)、その日孫の名は[アメミシウクシフスサダン(ナ)ミコ](第3章)といい、この一族が万方に展開したとありました。


次回は神話編の残りの5章から20章までを見ていきます。

[契丹古伝]は研究者によって解釈が異なるので、様々な学者の解説文を読んでみて下さい。

最後までご覧頂きありがとうございました。


📖この動画の参考書籍📖
浜名寛祐著書「契丹古伝」
鹿島曻著書「倭人興亡史」
浜田秀雄著書「契丹秘伝と瀬戸内の邪馬台国」
佐治芳彦著書「謎の契丹古伝」
東洋文庫「三国史記1新羅本紀」
中村啓信著書「古事記 現代語訳付き」
国立図書館コレクション「続日本紀」

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