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21世紀のグーテンベルク・モーメント

はじめに

2023年に生成AIがブーム化したときには、パソコンやスマホやインターネットの発明、車輪や蒸気機関の発明に匹敵する画期的な事件だと報じられました。
今回は、人類史的転換点として、グーテンベルク・モーメントと比較してお話ししたいと思います。

グーテンベルク・モーメント

グーテンベルク・モーメント(グーテンベルクの瞬間)とは歴史の転換点を指す言葉です。
グーテンベルクの活版印刷が知識の普及を進め、宗教改革やルネサンスや近代科学につながりました。
それまで知識は物理的存在でした。知識を持っているとは本を物理的に所有していることでした。中世ではコインブラ大学でもボローニャ大学でも、大学とは本を物理的に収蔵している場所でした。大学教授とは本を収蔵しているところに勤めていて物理的に本を見ることができる人だったのです。
活版印刷は本のコピーの数を飛躍的に増やし、知識へのアクセスを増やされた。

21世紀のグーテンベルク・モーメント

インターネットの時代になって電子的コピーはさらに容易になりました。しかし情報爆発によって人間の情報処理の負荷は軽くなりませんでした。2023年の生成AIによって、世界全体の知識を圧縮して大規模言語モデルを実現し、そこから知識や論理を引き出すことができるようにました。
これが21世紀のグーテンベルク・モーメントです。
この進化は次のようなものです:

  • 第一段階 知識が少数の本

  • 第二段階 知識が多数の本の流通で支えられる

  • 第三段階 専門家の知識をコピーして生成AIで誰もが使える時代

ある会社で技師長をしていた知人が、生成AIで一番いらなくなるのが専門家かもしれない、と言っていたのが印象的です。

なぜ生産性があがらないのか

生成AIは人間の知能を複製していくらでも増やせる機能です。
オフィスの多くの仕事は人間ボトルネックです。このボトルネックを解消すれば生産性は飛躍的にあがります。
しかし、雇用が流動化している米国ですら、生成AIで失業したのは2023年で6000人という数字があります。ほとんど関係ないということです。
日本でも生成AIアイドルで女優のCMの仕事が減るみたいな話はありますが、生成AIの生産性でレイオフが起こった話は聞いていません。
生成AIが人間を失業させるというリスクは語られますが、失業した人がデモをして生成AIに反対するというようなことは日本では全く起こっていません。
理由は2つ考えられます:

  • 実は生成AIは役にたたない:生成AIの欠陥が明らかになる

  • 組織が生成AIを使いこなせない:組織運営の欠陥が明らかになる

2024年はこのどちらが正しいかを見極める年になると思います。

白黒つかない可能性

たとえ生成AIが画期的な事象でも必ずしも白黒つかない可能性もあります。
活版印刷は画期的な発明で、聖書の印刷と配布はプロテスタントの勃興を生みました。たしかにプロテスタントの勤勉主義は産業革命につながりました。一方、500年たってもカトリックはカトリックで世界中に定着しているのも事実です。
社会を一変させるような大きな事件も世界を二分はしますが、世界を塗りつぶすには至らないのかもしれません。

時間スケール

今から見ると産業革命は劇的変化ですが、18世紀に産業革命がおこったときにも、なんじゃあれはと蒸気機関をみて農民が笑っていた時間も何十年も続いたのかもしれません。
数年では変化が出ない可能性もあります。技術は進みますが、組織は簡単にはかわりません。組織には現状維持圧力が強くかかるものです。

むすび

ダボス会議のパネルでもパネリスト全員が生成AIは産業革命の蒸気機関の発明に匹敵すると言うのに賛同していました。生成AIのインパクトは大きいと感じますが、本当に社会に浸透し、産業システムや社会システムに変化を与えるのか、それはいつなのかは興味深いです。
すごいものができたし、みんなすごいと思っている。しかし、意外にすごいことが起こらない。不思議なものです。



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