副業の制度構築の進め方

かつて、我が国のほとんどの企業において、副業の全面禁止は当たり前のことでした。

しかし、現在はコンプライアンスや、企業の人材確保戦略において、従業員の副業を行う権利を尊重することは、必要不可欠な時代となっています。

そこで、本稿では、副業を解禁するにあたり、実務上どのように制度構築を進めて行けば良いのかを解説させて頂きます。

副業は「届出制」が最も無難

企業の副業に対するルールの定め方は、大きく分けて3つの手法があります。それらは、「許可制」「届出制」「完全自由」です。

結論を先に申し上げると、その中では「届出制」をベースにしてルールを定めることが最も無難であると筆者は考えています。

順番に見ていきますと、まず「許可制」ですが、確かに、許可基準を緩くして、柔軟に副業を許可するような制度設計にすれば問題はないのかもしれません。しかし、「勤務時間外は従業員の自由時間である」という原理原則や、これまでの裁判所の判例の考え方を踏まえると、私的時間に行う副業に対して、会社の許可が無い限り副業を行うことができないという「許可制」は、やはり、今の時代、考え方自体に無理があると言わざるを得ません。

続いて、両極端の「完全自由」について触れておきますと、こちらは、企業が副業の実態を掴むことができなくなってしまい、実務上は採用をすることが難しいと筆者は考えています。より具体的に言えば、「完全自由」だと、本業と副業を通算して過重労働になっていないかとか、本業と競業になる恐れがある副業を営んでいないかなど、最低限のチェック機能さえ働かなくなってしまうということです。

そこで、労使にとってバランスの良い落としどころが「届出制」ということになるのです。

届出制の考え方のもとでは、「届出をすれば副業を行うことは原則自由だが、過重労働になったり、競業の恐れがある場合に限り、副業の禁止ないし制限を求める」という実務運用になります。「届出制」を採用すれば、従業員の副業を行う権利を尊重しつつ、企業としても必要なチェックを行うことの両立が可能になります。

なお、厚生労働省の副業解禁後のモデル就業規則も「届出制」を採用しています。

「届出制」の制度構築

それでは、届出制を採用したとして、どのように社内の制度構築を進めていけば良いのでしょうか。①従業員への周知方法、②申請の上げ方、③申請後の対応、の3段階に分けて説明をしていきます。

まず、「①従業員への周知方法」ですが、「就業規則の改定」と「従業員説明会の実施」の2つが重要になります。

就業規則の改定では、厚生労働省のモデル就業規則などを参考にしながら、副業の許可制について定めた条文を追記しましょう。しかし、就業規則上の定めは、あくまでも包括的な内容にとどまるため、円滑に実務を運用するには、「副業規程」を別冊で作成して、副業を申請するためのフローや、副業が禁止や制限を受ける場合の基準、副業が禁止や制限を受けた場合の不服申請の方法などについて、細則を定めることが必要です。副業規程の作りこみは、自社に合ったルールにしなければなりませんので、ひな形の流用では意味がありませんから、慎重に内容を検討し、必要に応じて弁護士や社会保険労務士など専門家のサポートを受けながら作成を進めると良いかもしれません。

就業規則への副業の許可制の反映や、副業規程の作成が終わったら、「従業員説明会」を行います。規程類を形式的に整備するだけでは、なかかな従業員には伝わりにくいですから、説明会の場を設けて、これからはちゃんと申請をしてくれれば会社は副業を原則として認めるスタンスであることを宣言するとともに、副業を行う場合に最低限守ってほしいことを伝えます。加えて、質疑応答を通じて従業員の疑問点を解消したり、労使の副業に対する温度感の統一を図ったりすることもできます。

次に、実際に副業を行う従業員が発生した際の「②申請の上げ方」ですが、①で整備したルールに沿って、申請をしたり、許可基準に合っているかのチェックを行ったりすることが重要です。せっかく立派なルールを作っても、それが形骸化してしまっては意味がありませんから、従業員には、ルールに沿った書式で、ルールに沿った申請窓口へ副業の届出を行ってもらうことを徹底させましょう。もちろん、企業側も、ルールに沿って届出内容のチェックを行うべきことは言うまでもありません。

意識してルールを守るためには、マニュアルやチェックリストなども整備をすると良いでしょう。あるいは、副業を管理するためのクラウドシステムを導入するというのも一案です。システムに乗せてしまえば、嫌でも業務の進め方は統一化されますので、いつの間にかローカルルールができたり、ルールが無視されたり、チェックの甘辛が担当者によってバラつきが生じたりといったリスクを最小化できます。また、副業申請の件数が多い大企業では、システムの導入は業務の効率化にも貢献します。

最後に、「③申請後の対応」です。届出のあった副業内容をチェックして、問題があった場合は、理由を添えて、副業が不可能ないし制限を受ける旨を従業員に伝えます。従業員から不服の申し立てがあった場合には、副業規程に基づいて、再審査を行ったり、労使協議会を開いて協議を行ったりします。最終的に不許可にせざるを得ないにしても、誠実に対応をすることが労使の信頼関係につながり、裁判などに持ち込まれるリスクも低減させることができます。

届出のあった副業に問題が無かった場合は、その旨を本人に伝え、安心して副業を行ってもらう流れになるわけですが、「以上終了」ではありません。申請した内容に変更があった場合には、「副業内容変更届」を提出してもらって再度チェックをしたり、年1回とか半年に1回、「定期報告書」を提出してもらったりと、事後の変化点管理も必要です。事後のチェックに関するルールも、忘れずに副業規程に定めておきましょう。

まとめ

本稿を読んで頂けば分かるよう、副業に関する社内制度構築は、「モデル就業規則の副業条文を自社の就業規則に移植して終わり」というような単純な話ではありません。社内で実態を伴った運用ができるように、自社にあった副業規程の作りこみや、そのルールを定着させるための努力や工夫が必要なのです。