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人物裏話——高校教師篇。

「加納先生、おたくのミズオとうちの今井は随分仲が良いですね」
「ミズオじゃなくてミナオですよ」
「ああ、そうなんですか。珍しいですな」
「有名な商事会社の息子なんですけどね」
「そうらしいですね。入試でトップでしたな」
「去年の後半から成績が落ちたんですよ、それが」
「落ちたって云っても、まだ帝路大レベルでしょう」
「頭が悪くなった訳じゃないですから」
「で、今井と矢鱈仲が良いんですけど、あれ、大丈夫ですかね」
「何がですか」
「ほら、男子生徒によくあるアレ」
「それはないでしょう。あいつ、結構女生徒に人気がありますよ」
「へえ、あんな見た目で」
「性格は良いですからね」
「ぶっきらぼうじゃないですか、碌に口も利きませんよ。今井とはよく喋っていますが」
「ああ、廊下でいつも話していますね」
「話し方が尋常じゃないんですよ、今井が迫るようにして喋ってますからね。彼もなんか甘えるようにしてるし。女子が面白がって写真を撮ってるんですけどね。これです」
「どれ。……なんですか、これは」
「友達の範囲を超えてるでしょう」
「慥かに超えてますね。これ、まさかキスしてるんですか」
「撮った子に訊いてみたら、顔を近づけて話してるだけだって云っていましたけどね」
「これは問題だな、今度訊いてみますよ」

 ………………。

「水尾、ちょっと来い」
「なんですか」
「職員室で話そう」

「そこに座れ。……おまえ、最近また成績が落ちたな。どうしたんだ」
「勉強はしているんですけど」
「なんか悩みごとでもあるんじゃないか」
「ありません」
「交友関係で気になることはないのか」
「ないです」
「三組の今井と仲が良いよな、どう思ってるんだ」
「どうって、中学が一緒なので一年の時から仲良くしていますけど」
「仲が良いってどれくらいなんだ」
「どれくらいって、普通だと思います」
「普通じゃないように見えるから訊いてるんだよ。男に恋愛感情を持ったことはあるか」
「は?」
「男を好きになったことはあるのかって訊いてるんだよ」
「ある訳ないじゃないですか」
「じゃあ、なんであんな風に喋ってるんだ」
「どんな風にですか」
「おまえが壁に凭れて今井がそこに手をついて話してるだろ。普通の男同士はあんな喋り方はしないよ」
「そうですか?」
「今井の背後から抱きついたりしてるそうじゃないか」
「ああ、あれは癖で」
「学校でやるな」
「判りました」
「よく考えて行動しろよ。もういい、寄り道しないで帰るんだぞ」
「はい、失礼します」
「困った奴だな」
「……なんか色っぽい子ですね」
「そうですか?」
「あの子でしょ、妖怪プリンス」
「なんですか、それ」
「女子の間でそう云われてるんですよ、きれいな顔立ちをしていますからね」
「ああ、髪の毛で顔が隠れて見えないけど、かき上げると判りますねえ。女性的な顔立ちで」
「女の子みたいですよ、色も白いし目も大きくて」
「指もきれいなんですよ」
「永田先生」
「水尾君、女性教師の間でも人気があるのよ」
「はあ、そうなんですか」
「なんか上級生の女生徒とつき合ってるって噂があったけど」
「そんな噂がありましたか?」
「去年の暮れくらいなんですけどね、この辺りに住んでいる子が一緒に歩いてる姿をよく見掛けて、一部で話題になっていたみたいで」
「女っ気はなさそうに見えるんだけどなあ」
「彼、女の子には優しいんですよ。重いものを持ってあげたり、あれこれ手伝ったり」
「そんなことをするくらいなら自分のドジをなんとかして慾しいな。そこら中にぶつかって歩いてるじゃないか」
「そこが可愛いんですけどね」
「永田先生、生徒に惚れちゃ駄目ですよ」
「あの子ならいいかな、なんて」
「やめて下さいよ、問題を起こすのは」
「ああ、噂をすれば、水尾と今井が帰って行きますよ」
「……今井が肩抱いて歩いてるよ」
「本当に仲が良いんですねえ。お似合い」
「お似合いとか云ってる場合じゃないでしょう、男同士なんですよ」
「別にいいんじゃないですか、同性間の婚姻も一部で認められているんですし」
「女のひとはこれだからなあ」
「水尾君、宝塚の男役みたいな顔してるもの。つけ睫毛してるみたいで」
「睫毛は長いな」
「あれくらいの年になると男子生徒はごつくなって髭も生えてくるけど、華奢でつるっとした肌して、羨ましいくらい」
「男を羨ましがってどうするんですか」
「半分女みたいなものじゃない」
「なんか可哀想になってきたな」

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