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人物裏話——遊木谷左人志篇

 遊木谷左人志、ゆきやさとしと読む。「さひとし」ではない。
 もしかしたら登場人物の裡で一番大人かも知れない。年齢ではなく、人格が。三十そこそこでこれほど落ち着いた人間も居ないのではなかろうか。影郎の世話をしているうちに老成したのだろうか。
 因みに、「おしまいで、はじまり。」の時は二十七才。影郎が死んだ時は三十一才である。もう、この頃はおっさんのような貫禄すらある。わたしが考えだした人物は、どうにも子供っぽい者が多いのだが、その中で彼は異色の存在である。
 一七八センチの長身で痩せ形だが、アウトドアが好きなだけあって筋肉質。おおらかで包容力があり、文章には出てこないが、女っ気がない訳ではない。こんな男を女が放っておく訳がなかろう。三十五でちゃんと結婚する。因に草村は生涯独身だった。影郎の死が相当ショックだったらしい。
 生まれた子供には生郎と名づけた。影郎の分まで生きて慾しいという願いを込めてつけた。妻が庭の畑を潰して花壇にしたが、世話が出来ないので承諾した。影郎の生家は、彼の親から感謝を込めて譲られた。それくらいはするべきであろう。
 甘利が「おっとこまえ」と云っているくらいなので顔はいい。GAPばかり着ているが(現実のようなぼったくり価格ではない)、服装に無頓着という訳ではない。基本的にトラッドなものを着ている。スーツには金をかけているようで、マーガレット・ハウエル以外はポール・スミスが多い。
 旧車に拘っているのは完全にわたしの趣味である。登場人物で現行の車に乗っている者は殆ど居ないという有り様。バイクは中型免許なので、それほど拘りが無いようである。改造もしない。
 非常に自立した人間なのでひとりでも平気だが、影郎が家を出たあとは淋しかったらしく、庭や台所でぼんやりしていた。料理はまったく出来ないので、影郎が居なくなってからは総菜や弁当を買ってきて喰っている。
 銀行を辞めたあとは影郎のバーを手伝い、その後、再就職して自動車関係の営業マンになっている。現実的な考え方をする人間なので水商売は苦手だったのだろう。
 その性格からひとに慕われ頼りにされる。影郎を育てた、と云っているが、親が放任だったので面倒はよく見ている。影郎が死んだ時は、実務的なことに意識を集中して悲しみを紛らわせていた。
 ひき逃げ犯が捕まった時はさすがに怒りを露わにしたが、温厚な人間である。

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