見出し画像

映画最終日

「二作目も阿呆なんかなあ」
「続編だから前の作品の流れで、似た感じになるんじゃないかな」
「昨日のは観るだけで疲れたで」
「左人志、突っ込みすぎだよ」
「突っ込みどころ満載やでしゃあないやん」
「今度のは舞台が日本じゃないから、それほど変にはなってない思うよ」
「ありゃあ向こうのひとの誤解で成り立っとったで、おかしかったんか」
「そうだと思う」

「この映画はあれやな、殺し屋は刀持っとるっちゅうのが前提になっちゅうんじゃの」
「チャンバラシーンが撮りたいだけなんじゃない?」
「まあ、簡単に云えばそういうこっちゃな」
「アメリカのひとって、よくこういうトレーラーに住んでるよね」
「まあ土地が広いでの。日本は土地が狭えけえ、あねえなでけえ図体の車、そうそう置いとられへんわ」
「廃棄バスに住んでるひと、テレビで見たことあるよ」
「あれなあ。土地代とか、どうしよんじゃろうな」
「一応、払ってるんじゃないかな」
「またでけえ女が出てきよったなあ」
「ダリル・ハンナ。SF映画の傑作、『ブレードランナー』のレプリカント役で注目を浴びるが、背が高過ぎて『ジャイアント・ウーマン』なるZ級映画で巨人女を演じる羽目に。その後は役に恵まれず、日本では何をしているのか判らない状態だったが、本作でいきなり復活する。蓋を開けてみれば、監督クエンティン・タランティーノを籠絡して役を獲得した事実が判明した。撮影収録後、あっさり棄て去られ、再び消えてしまった悲劇の女優である」
「なんや、木下君の解説は殆ど悪口じゃがな」
「それにしても赤十字のアイパッチって、漫画みたいだね」
「全面的に漫画じゃて。前のを確実に踏襲しとりよんな」
「今度は香港映画なんだ」
「この監督、アジアをなめきっちょるの」
「うーん、オタクだからしょうがないんじゃない? ジャッキー・チェンの映画と少林寺三十六房を混ぜ合わせたみたいな感じで、西洋人にしては勉強してるよ」
「おまえ、やけに映画詳しいやないけ」
「リョウ君に会いに、よく図書センター行くから」
「あんま仕事の邪魔せんときや」
「してない」
「この爺さんは、ほんまもんの香港の役者けぇ?」
「……んーと。ペー・メイは、ショウブラザース社の映画シリーズに出演したロー・リエが演じた。当初は監督自ら演じるつもりだったが、断念したのは正しい判断であろう。修行シーンの殆どが、ショウブラザース社製カンフー映画のオマージュと謂う名のパクリである」
「ほんま悪意のあることしか書いちょらんのう」
「……ねえ」
「復讐なんか刀の取り合いなんか、判らんようになってきたな」
「どっちでもええんじゃない?」
「またキャット・ファイトかいな。好っきゃなあ、こういう泥レスみてえなのが。大阪人並やん」
「あんな狭いとこで刀振り廻してたら、普通死んてるよね」
「普通はな」
「あの男のひと、出てきた意味あるのかなあ」
「あんまねえな」
「ああ、ブレードを埋めるために居たのか」
「鞄に毒蛇仕込むて、いけずな女じゃのう」
「棺桶から脱出する為の伏線として、カンフーの修行してたのか」
「カンフー映画擬きを撮りたかっただけちゃうか?」
「まあ、そうだろうね」
「息長えんは、植物人間じゃったでか」
「どうだろ。……ああ、やっとビルが出てきた」
「待たせた割にゃあ、冴えんおっさんやな」
「このひとと元は恋人同士で、娘まで居るんだ」
「なんか巻きで話まとめちょんのう」

    +

「木下君、この映画なんなの」
「面白くなかったですか?」
「おもろすぎて突っ込みまくりだったよ」
「あはは、そんな映画だった。監督がちょっと趣味に走り過ぎてるんですよね」
「あの解説、木下君が書いたの?」
「あ、判りました?」
「あんなこと書くの、木下君しか居ないよ。『奥の細道』の卒論、伝説になってるって、前に云ったじゃない」
「そういえば、はじめて会った時に云ってましたね」
「君の文章は癖があるんだよ」
「でもまあ、タランティーノの初期の作品はいいですよ」
「木下君が勧めるのはなあ」
「いや、本当にいいですって。評論家の受けも良かったみたいだし」
「どんなの?」
「『レザボア・ドッグス』と『パルプ・フィクション』なんですけど」
「あのカンフー・スーツの女が出てくるじゃない」
「そうですけど、あんなおかしな役じゃないですよ。『レザボア・ドッグス』の方は本当にいいですし。銀行強盗した後の話なんだけど」
「銀行員にそんなもん、勧めるの?」
「そりゃ関係ないんじゃないですか、映画なんだし」
「まあ、そうか」
「カゲローは?」
「ああ、下で本見て来るって云ってた」
「あいつでも本読むんですか」
「料理の本」
「ああ。ほんと料理好きですねえ」
「なんでだろうな。まあ旨いもん作ってくれるからいいけど」
「一応、役には立ってるんですね」
「一応ね」
「あ、来た」
「なに借りてきたの」
「保存食の本」
「もういいって、保存食は」
「近所のひとにあげるからじゃん。リョウ君にもあげてるよね」
「もう要らん」
「えーなんで?」
「そう喰えるか」
「日持ちするよ」
「それより、瓶が溜まってるから取りにこいよ」
「ひと瓶づつ返して」
「なんでそんな地道に返さにゃならねえんだ」
「その分だけ会えるから」
「まとめて送る」
「住所知らないでしょ」
「遊木谷さんに教えてもらうからいいよ」
「左人志は教えないよねえ」
「教えるよ」
「不味い立場になるようなことするよ」
「保護者脅してどうすんだ、おまえは。いいよ、小坊主のスタッフに訊く」
「ちぇー」
「先刻の映画ですけどねえ、『レザボア・ドッグス』が気に入ったら『キリング・ゾーイ』とか『狼たちの午後』を観てみるといいですよ。『狼たちの午後』は『ゴッドファーザー』のアル・パチーノが出てますし」
「ああ、あのチビ」
「ははは。小さくても、演技は凄いですから。ゲイの銀行強盗役なんだけど」
「ゲイはいいわ」
「あら。……影郎の所為か」
「なんか知ってるの?」
「知りませんけどね、噂でしか。けどこいつはゲイじゃないでしょ」
「どうなのかねえ」
「違うよ」
「まあ、節操がないだけなんじゃないですか。年喰えば落ち着きますよ」
「ならいいけどねえ」
「まあ、取り敢えずカゲロー。医者行って血液検査してもらえ」
「月に一回してるよ」
「そうなのか。なんで」
「貧血だから」
「ああ、そうか。おれも貧血で入院したことあるわ」
「そうなんじゃ」
「高校の時な。三日だけだったけど」
「仆れたの?」
「学校でつき合ってる娘と喋ってる時にな。江木澤に見られた」
「江木澤君に」
「そう。牧田に見られなくてよかったよ」
「牧田君と仲悪いんじゃなぁ」
「別に仲は悪くねえよ。寧ろ仲が良過ぎると周囲から云われるくらいだ」
「いつも喧嘩してるじゃん」
「ありゃ喧嘩じゃねえよ。カゲローはまだ子供だなあ」
「同じ年じゃない」
「そうは思えん」

 ………………。

「なんで映画借りなかったの?」
「まあ、暫く映画はええわ」

画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?