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人物裏話——亮二と真紀子の会話篇。

「シャワー、浴びようか」
「一緒に?」
「だって、今更」
「今更ではあるな」
「こんなことになるとは思わなかったけど」
「つい、勢いで」
「こういうことはしないひとかと思ってた」
「なんで」
「なんでって、そんな気なさそうだったから」
「まあ、なかったけど」
「でしょ」
「でも、おれも男だから」
「それは判ってるけど、なんとなく他の子と違うし」
「違うか?」
「なんとなくだけど」
「小さい頃からそう云われてんだよな」
「だって変わってるもん」
「何処が」
「喋んないし、考えてることもよく判んないし」
「おまえとは喋ってるじゃねえか」
「すぐ黙っちゃうよ」
「そんなに話したいことがないから」
「ひどーい。わたしと居るとつまんないの?」
「んなこたねえよ。そう思ってたらつき合わない」
「デートなんかしないじゃない」
「今、此処に居るのは、デートじゃねえのか」
「家に来ただけじゃん」
「どうすりゃいいんだよ」
「何処か行くとか」
「何処に」
「買い物とかつき合って慾しい」
「そういうのは女友達と行った方が愉しいんじゃねえのか」
「リョウ君と行きたいの」
「だっておれ、普段は路上ライブに行くから時間ないんだよ」
「時間なんか作れるでしょ」
「天気の悪い日はつき合ってるだろ」
「厭々って感じでね」
「んなこたねえよ」
「じゃあ今度、一緒に行ってくれる?」
「判った、行きます」
「厭そう」
「厭じゃないです、喜んで行きます」
「約束だよ」
「はいはい」


「じろじろ見ないでよ」
「こういう機会ははじめてだから」
「恥ずかしいからあっち向いてて」
「きれいだなあ、と思ったから見てただけなんだけど」
「リョウ君だってきれいじゃない」
「この体見てきれいだと思うなんて、おまえ、変わってんな」
「だって、わたしより色白いし、肌もきれいだし」
「痩せ細ってるけど」
「骨だらけだね」
「骨は普通だよ」
「多いって云ってるんじゃなくて、目立つ」
「気にしてんだから指摘しないでくれ」
「太ってるよりはいいと思うけど」
「限度があるよ」
「体弱いもんね。仆れたし」
「あれがはじめてだよ」
「吃驚した。あのあと入院したし」
「栄養失調ってだけだよ」
「今時ありえない」
「ありえないっつってもそうだったんだから」
「お弁当でも作ってあげようか」
「料理、出来んの」
「出来るよ。うち、共稼ぎだから」
「ああ、そうか。お母さんは何処で働いてんだ」
「旅行代理店の事務」
「へえ」
「時々安いチケット貰うんだけど、忙しいから行けないんだよね」
「大変だな」
「リョウ君ちは、お母さん働いてないんだよね」
「おれが生まれる前は働いてたらしいけどな」
「いいなあ、家に親が居るって」
「居ないからこんなことが出来たんだと思うけど」
「そうだけど」


「何時まで居られるの」
「門限なんかねえ」
「晩ご飯、食べてく?」
「お母さん、遅いのか」
「今日は職場のひとと食べてくるって」
「親父さんは」
「いつも遅い」
「おまえが作るの?」
「うん」
「んじゃ、喰ってこうかな」
「何が好き?」
「好き嫌いはそんなにないけど、多く食べらんねえ」
「食べなきゃ駄目だよ。また仆れちゃうよ」
「そんなこと云ったって、喰えねんだから」
「お肉とか食べてるの?」
「あんま好きじゃない」
「男なのに」
「性別は関係ねえだろ」
「普通、唐揚げとか餃子とか三人前くらい食べるよ」
「どっちも好きじゃない」
「好き嫌いあるんじゃない」
「そうだな」
「リョウ君って、自分のことがよく判ってないみたいだね」
「そうかな」
「なんか、とぼけた感じがする」
「馬鹿だって云いてえのか」
「馬鹿って訳じゃないけど」
「よく馬鹿だって云われるんだよ」
「誰に」
「牧田に」
「ベースのひと?」
「そう」
「あのひとの方が馬鹿っぽくない?」
「そうだろー」
「人気あるけど」
「女受けはいいんだよな」
「気さくだし、面白いから」
「まあ、面白いけどな」
「凄く仲が良いよね」
「馬が合うから」
「ドラムの江木澤君はおとなしいね」
「あいつはな」
「つき合ってるひと、居るの」
「居るけど、なんで」
「友達で、彼が好きな子が居るから」
「彼女が居るから無理だな」
「同じ学校の子?」
「いや、違うよ。ライブを観に来る子で、年下」
「そうか、佳子には諦めるように云っとく」
「佳子って?」
「北村さん」
「あいつか。可愛いじゃん」
「他所見しないでよ」
「しねえよ」
「リョウ君、あんま女の子に興味なさそうだもんね」
「ないこたねえよ」
「そうかなあ。みんな適当にあしらってるじゃん」
「バンドのことで寄ってくるからだよ」
「そうじゃなかったらいいの?」
「彼女が居るうちは、他の女と特別親しくしたりしない」
「安心した」
「しといて」

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