爪化粧
「爪がピンクい」
「足だけマニキュア塗ってみたの。ペディキュアっていうんだけど」
「ふうん」
「手の爪だと先生に注意されちゃうでしょ」
「制服着て赤い爪してたら、売春婦に間違われるわな」
「赤いマニキュアはしないけど、透明なのや薄いピンクのなら塗ってる子、居るよ」
「居るな。鹿尾菜みたいな睫毛してる奴も居るし」
「あれはマスカラ」
「マラカス」
「違う、マスカラ」
「ミル・マスカラス」
「なにそれ」
「プロレスラー」
「リョウ君って、変な知識だけはあるね」
「雑学王」
「そんな感じ」
「明日、日曜日だから手の爪も塗れば」
「マニキュアしててもいいの」
「おれがするんじゃねえからいいよ」
「男のひとって嫌うみたいだから」
「長い爪とか濃い色は好きじゃねえけど、ピンクならいいと思うよ」
「化粧してる女のひと、嫌いかと思った」
「なんで」
「なんとなく」
「厚化粧は厭だけど、まったくしてねえのはだらしねえ気がする」
「無頓着な感じがするよね」
「きれいにしてる方がいいだろ。ジーパン穿くのはいいけど、仕草まで男みたいなのはなあ」
「煙草喫ったりとか」
「それはあんま気にならんな。親の知り合いに喫う女が結構居るから」
「そうなんだ」
「ヒッピーみたいな奴らが多いんだよ」
「カッコいいじゃん」
「よかねえよ」
「これ一本しかないんだけど」
「……塗ってみたい」
「えー。上手に塗れるの」
「やったことないけど」
「結構難しいよ」
「難しいことに挑戦するのが人間だ」
「そんな大袈裟なもんじゃないけど。……こうやって液を瓶の縁でしごいて、爪の根元から先へ塗ってくの。はい」
「やりにきー」
「きれいに塗ってよ」
「……はみでた」
「綿棒で取るからいいよ」
「乾いてないうちならすっと取れるんだな。……はい次」
「全部やるの?」
「親指だけじゃ変だろ」
「あー、もう。はみだしまくり」
「ほんとに難しいな」
「リョウ君って、細かい作業が苦手そうだもん」
「そうかな」
「がさつだから」
「これ、顔に塗るぞ」
「だめー」
2016年 3月 5日 ブログアップ
注)最近は爪に装飾を施すことを「ネイル」と表現するらしいが、わたしの世代ではマニキュアと云う(者が多い——と思う)。特殊な道具で硬化させる種類など存在すらしなかったし、それらが一般に流通しきった頃にはもう、齢を喰っていた。
デニムをジーパンと称するのと同じである。因みに「デニム」は布地の名称である。老婆心ながら……(ほんと、いらんお世話だよな。こう謂う豆知識)。
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