AI小説って…。

たぶん、AIが小説を書くようになるよね。
 
かつて、ある作家さんが、実人生、実社会での経験がなければ本当の人間ドラマは描けない、ということを書いていて、それは人間同士の生の感情のやり取りの経験がなければってことだろうと思うのだけれど、そしてそれは絶対そうだろう、と私も物凄くそう思っていたのだけれど、実は今、その思いがちょっと揺らいでいるんですよね…。
 
これまたその作家さんとは別な人が他で書いていたことなのですけど、「ザ ビューティフル ワン」と呼ばれることになったマウスの実験のこと。
一応、端折って書いておくと、空間だけが限定されるかわりに食料・水・巣の材料は常にあり、外敵も存在しない。そういうマウスたちの世界を作ってみたらどうなるのか、というものらしいです。
時間の経過とともにマウスたちは増え続け、やがて、過密、過剰となる。そうなるとマウスたちは行動異常を起こし、雌は凶暴化、雄は無抵抗化へ。そして遂に雄たちは求愛動作や闘争もせず、食べる、飲む、寝る、毛づくろいをするなどの行為をすべて自分だけの孤独な作業として行うようになり、結果、「このような雄はつやつやとした傷のない健康的な毛並みが特徴的だった為「ザ・ビューティフル・ワン」と呼ばれるようになったという話。
繁殖行動もついぞ再開されることはなかったそうです。つまりは絶滅に向けて後は進むだけって、まるでディストピア小説。
で、わたしが言いたいことはそのねずみの実験のことではなく、これを紹介してくれた方が書いていた“今、このビューティフルワンのような人たちが増えているような気がする”という、このくだりのことで、これが先の作家さんの「人生における実体験」の話と合わせた時、なにか心がざわついたんです…。
 
多分、プロの方々、編集者や下読みも含めて、応募作品を読む機会が元々あるから、小説投稿サイトにおける日常の投稿作品にはあまり目を通していないだろうし、そこに付けられる感想コメントにもあまり目を通してないだろうとは思うんですけど、でもね、あのね、もしかしたらね、目を通した方がいいのかも?って、ふと思っちゃったんですよね…。
それは作品に対してじゃなく、感想コメントに対して、なんですけどね…。
 
作品に関して言えば、そこに描かれているのは確かにどこかで見たようなハナシで、それはマンガかTVドラマか、映画かラノベの焼き直しには違いないんでしょうけど、そこは、分かるんです。
要はお手本の模倣だよねってことだと思うし、今まで読んだり見たりしてきた作品に感動したから、自分もそういう話を書いてみたい、そういうことなんだろうね、と。
でも数ある中には、そうじゃないことを書いてくる人もいますよね。
自分の実体験について、それを下敷きにしている作品。
でね、そういう作品に触れた時の感想が、気になるんですよ。
読んでるとね、そういう作品に対してね、「これは実体験を下敷きにしたものなのでは?」と、そこに思い至って書かれている感想って、実はあまりないんですよね…。
 
ドラマでも「あんたAIなんすか、夫GPTなんすか」ってやってたけれど、感想欄に書き込まれている感想もまさにそれに近いのでは? と。そんな気持ちにさせられたんです。
で、心がざわざわしてきたんですよ。
だって、もし、ビューティフルワンみたいな生き方をしていたら、そういう人達はおそらくそこに書かれてある内容が、実体験をモデルにしているのか、マンガ(映画、テレビドラマ、ラノベ)をモデルにしているのか、その違いには気づかないのではないか、と。
 
養老先生の『バカの壁』の中に頭が下になっている人間のイラストが出てきます。
要は五感よりも思考力だけが肥大して頭が下に来てしまっている現代人の姿ってことなんですけど。
現代人はAI人間。
だとすれば、たぶん、生身の人間の心がAI化してゆけば、「AIが書いた小説はとても面白い」、そうなるんじゃないでしょうか。
 
おそらく、その小説はきっと、アンチテーゼから始まり起承転結がちゃんとできていて、そのストーリー運びはゲーム性に富み、主人公たちは物語が進むごとに何かを得て、何かを失う。行きて帰りし物語。その間に主人公の成長もある。
そういうものなら、これからはAIが沢山、描いてくれるような気がしますし、実際、きっとかなり面白いだろうと想像できます。
 
『バカの壁』にもありましたが、今は、ただ泣いている女の子を見ただけでは、切ないな、泣いていて可哀想だなって思わないのが現代人なんだそうです。そこにちゃんとなぜ泣いているのか、その理由付けがないとなんとも思わないらしいんです。
実際、例えば、月夜のボタン、と聞いて、「は?」って人もさることながら、「ああ、あの詩ね、せつないよね」と思うより、「あの、それ、タイトル、違いますよね」と真っ先に思う人の方が、今は圧倒的に多くなっているような気がするんですよね…。
 
AIが人間のようになるんじゃなく、人間の心の方がAIのようになってゆくのかもしれないな。
そんな風に思う今日この頃なのでした。

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