2021/7/19

 私が腐る前に、どうか余さず食べて欲しいのです。

 こんな季節では、私は指や足の先から蕩けていってしまうのです。もしそうなって、あなたに嫌われてしまったら、私はきっと悲しくて泣いてしまいます。

 だから、そうなる前に、早く。

 食べ方はきっとお任せします。煮ても、焼いても、揚げても、蒸しても。酒、塩……どんなものにまみれても構いません。ああ、そうだ。薬草やスパイスも、私の棺桶に入れておきました。西洋料理では、肉の臭みを消すためにそれらを用いるのだとか。思い付く限り、ありったけの種類をお父様に集めていただきました。どうぞお好きなものをお使いください。私はどのような姿になっても気にすることは無いのです。あなたのご随意のままに。強いて言えば、美味しく召し上がって貰う方が嬉しく思います。せめて、食べ残されてしまうことだけは無いように、それだけはお願いします。

 それと、私がこうなってしまったことを、どうかお気に病まないで。これは私が望んだこと。あなたのせいではございません。私はあの木漏れ日の差す東屋で、あなたとお話ししたかけがえの無い思い出を胸に、この目蓋を閉じるのです。

 さあ、あまり長くお手紙を書いてしまっても、その間に私は蕩けていくばかりですから。

 私の死体が腐る前に、どうか余さず食べて。

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