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美しい蛇と生きる

恋に落ちた。
たぶん、一目惚れだったと思う。2023年2月。運命だった。

鞄が欲しいなと思っていた。2023年1月に新しい鞄を買ったばかりだというのに、また鞄を探し始めていた。新しい鞄に満足していないわけではなく、仕事に疲れていて、金を使いたかった。金があるわけではないのに。ストレスってこわい。労働はわるい文明……
そういうわけで、ハイブランドと呼ばれる鞄を検索しては眺めていた。セリーヌかロエベかな、というところまできたとき、ジルサンダーのかわいさが追い上げてきた。言うてマルジェラもかわいいしフェンディもたまらん……うーむ……となっており決定打が見つからずにいたけれど、ふとジュエリーのことを思い出した。そういえばカルティエは鞄も出してたよね?
かわいい。私はあらゆることに対して造詣が浅いのだが、検索して見に行ったカルティエのバッグは何ともまあかわいい。ひょうちゃんがついてる。ティファニーはちょっと甘すぎるな、ショーメのビーマイラブやっぱかわい〜!などとネットの海を泳いでいるうちに、恋に落ちたのである。
恋の相手はBVLGARI。高嶺の花だった。

物欲の強い人生を送ってきました。
欲しいものはTwitterやインスタを開くたびに増え、店へ行くたびに増え、生活の折々で増えた。しかし悲しいかなそのすべてを買えるわけではなく、欲しくなくとも必要なものを買うと残るのは雀の涙。浪費家のオタクは常に残高を眺めてこれだけしか残らないのはなぜ……?税金高すぎんか?とふしぎがっている。
一過性の欲であれば、目につかないようにしているとそのうち鎮まっているのが常であった。インスタで出てきた可愛いお洋服やアクセサリーや便利グッズたち、保存せず広告に出会わなければ一週間で忘れる。これは私なりの欲と付き合う方法である。執着は手放せないが、距離を置くことはできるので。
しかし私の恋は、いくらブラウザのタブを消しても忘れることはできなかった。
四六時中そのことを考えている、というわけではない。仕事中にそんなこと考えていられないし、オタクの脳は忙しい。でもふとしたすきまに顔を出してくる。
脳直ツイッタラーこと私とはいえ、BVLGARIの鞄のことはなかなかツイートできなかった。そもそも分不相応である自覚は、ありすぎるほどにあった。
他人が何を持とうがどうでもいいが、「自分が持つこと」に対してはさまざまな懸念が出てくる。ケアはできるのか?そもそも使うのか?似たようなサイズの鞄も持っているのに?大切にできるのか?この値段の鞄を買って後悔しないのか?…………
欲の権化なので、似合うかどうかなんて心配はしなかった。もちろん惚れた鞄が似合うに越したことはないけれど、似合わない「から」諦めるという考えは端からない。だって恋に落ちてしまったので。理屈ではないので。どうしてもどうしても、私が、他ならぬこの「私」が、この子を欲しいと言うんですよ。
書くことで頭の整理をするタイプの私が、BVLGARIの鞄のことをツイートできたのは、出会ってゆうに一月は経ってからだった。恋である。手に負えない。何せ恋とはお医者様にも草津の湯にも治せない、四百四病の外に置かれる厄介なものだから。
何度も悩み、サイトを眺め、欲しいと買えないの間をいったりきたりした。そのあいだにBVLGARIホテル東京がオープンし、レセプションの写真が上がった。米倉涼子さまや大政絢ちゃんが持つ鞄はとても美しく、また私の苦悩が増えた。サイズだ。
最初は大きなサイズのものが欲しいと思っていたのだが、大政絢ちゃんの持った鞄は思ったよりもサイズが大きく、荷物がたくさん入るのはいい点とはいえ、私では鞄に負けてしまいそうだ。実物を見に行っていないのは、単純にハイブランド、それもジュエリーのお店に行くのはそれはそれは勇気が必要だったし、実物を見たらもう後先を考えずとにかく買ってしまいそうだったからだ。
そうこうしているうちに、友人がこの日に東京へ行くからだれかパフェを食べないかというツイートをした。ちょうど私も東京へ行く用事があり、彼女の挙げた日程が用事の前日だったから、ご一緒させてもらうことにした。
そして気付く。東京である。何でもある。BVLGARIも、ある。
気付いてから友人に、BVLGARIに付き合ってくれませんかと頼んだ。快諾してくれた。これで百人力だ。彼氏(二次元)相手の結婚指輪を買った夢女はさすがである。頼もしすぎる。
さて、この頃にはもう心はほぼほぼ決まっていた。サイズも色も、何度も眺めるうちに、いちばん美しいなと思った子だ。
来店予約を入れると、確認の電話が来た。二度出られず、折り返した。予約の日時の確認と、目当てのものを聞かれる。私は美しい蛇の名前を伝えた。

運命の日である。
芸術的でおいしいパフェを食べ、銀座へ向かう。銀座なんて縁のない地で、そもそもたどり着けるかと危惧していたが、夢女が連れて行ってくれた。さすがである。彼女なしには私は鞄を買えなかったであろう。
店に着くと、ちょうど一階に担当の方がおられ、そのままま二階へ案内していただいた。窓際の席へと案内していただき、炭酸水とチョコレートを出していただいた。おののく。BVLGARIのチョコレートである。緊張で手をつけられなかった。
担当の方が奥から鞄を出してきてくださり、もうその瞬間にこの子だと思った。かわいい。他のどんな素敵な鞄だってこの子には敵わないだろう。そのくらい、恋だった。
店内を案内してもらって、たくさんの商品を見せていただいて、たくさんの美しいものを見た。香水やブレスレットやスカーフなんかも本当に美しく、石油王だったらすべて買って帰りたかった。残念ながら私は石油王ではないから敵わなかった。
これが欲しい、とtwitterで呟いたサイズ・色の鞄も見せていただいたが、やっぱり私には少し大きく、気持ちは揺らぐことはなかった。いやめちゃくちゃにかわいかったんだけど。友人も私にはこっちだよね、と予約した鞄のほうを選んでくれた。
そうして席に戻って、クレジットカードを差し出した。鞄ともうひとつ、ツイリータイプのスカーフを連れて帰ることにした。もしあればこの子も連れて帰ろうと密かに決めていた。色が推しと推しちゃんのメンカラなんです……こんなことってあるか?私のために作られたスカーフに違いない。
鞄の準備をしてもらっているあいだ、ようやく炭酸水に手を伸ばせた。大きな金額の買い物にはどうしても緊張して、口に含んだ瞬間喉が渇いていたのだと気がつくほどだった。
レザー製品や香水は二階にあり、ジュエリーは一階にあったので、帰るためには一階を通る必要がある。きらびやかなジュエリーも少し眺めさせてもらい、いや〜〜ディーヴァうっつくしいですね……シンプルなんだけど計算され尽くした美である……物欲がとどまるところを知らない……買えんけど……
渡していただいたショッパーはその佇まいからしてもう美しく、持ち手の紐の部分を鬼ほどねじって渡してくださったので(BVLGARIのアイコンが蛇だからかなと思う)、私もねじりを意識して維持しながら持ち歩いた。

さて、私の元へと来てくれた美しい蛇ちゃんだが、それはもうかわいい。元来出不精で極力外に出たくない人生を送ってきた私が、積極的に外出の予定を入れるようになるほどだ。かわいい。人に見せたいわけではなく、一緒にお出かけするのが楽しいのだ。パフェを食べに行ったら推しのぬいや推しちゃんのアクスタと写真を撮るのと同じである。
ひとつだけ誤算があるとすれば、思ったよりもものが入らないことだが、まあ最低限は入るしもともとペットボトルは入らないとわかっていたので問題ない。ちょうど2022年末にお出かけ用の財布をフラグメントケースに新調していたし、だってこれだけかわいいんだから、そんなことは減点にもならない。かわいい。入らない荷物は手で持つかサブバッグを持てばよいのだ。サブバッグ、買いました。
BVLGARIの鞄を持つ女は毎日筋トレをしているはず!と思ってやり始めた筋トレは三日で挫折したが、これはすべて労働と夏が悪いので私のせいではないです
とはいえBVLGARIにふさわしい女に近付きたいので、挫折しながらでもやっていきたいですね……健康は何にも代え難い宝石だからね……

高嶺の花を手に入れてわかったことは、鞄を買うだけで魔法みたいに何もかもが変わるわけではないけれど、ひとつ心が豊かになるということ。抽象的な表現だけど、私にとっては、人生をよりよく生きるためのギアだった。
たとえば鞄に似合う自分になるために筋トレをしようとか、鞄を主役にしたいから服装を考えようとか、鞄をいい場所に置きたいから断捨離をしようとか、それらは小さなことで、だけど疲れていたり余裕がなかったりすると、私にとっては後回しにしてしまうものごとだ。それをやろうという気持ちにさせてくれる。
美しいものは魔法をかけてくれる。
その魔法は大袈裟なものではなくて、あとほんの少し頑張ろうと思わせてくれるものだ。人によってはそれが友人や家族や、はたまた推しだったりするかもしれない。
私の元に来てくれた美しいあなたに胸を張って一緒に生きていけるようになりたい。来てくれてありがとう、大事にするからね。いっしょにいろんなものを見にいこうね。

見てくれ 銀河一かわいい

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