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辻仁成③~ECHOESの曲の世界

『ECHOES=作家の辻仁成がやってたZOOが有名なバンド』
 世間一般での認識はこれでほぼ間違いないだろう。
 福山雅治をはじめ、いろんなアーティストがカバーしている『ZOO』。たぶんもう少ししたら学校の音楽教科書にも載るのではないかと。 

 でも『ZOO』、あとは『GENTLE LAND』『Alone』くらいしか有名になっていない現状が、もっと広まってほしい曲がわんさかあるんだよと、個人的には歯がゆい思いをしているわけで。

ZOOはシングルVer.が好き。最後の英詞部分を仁成一人で歌ってるのが孤独さと寂しさを感じて良いのよ。


 実際にECHOESをリアルタイムで聞いたことのある世代はもはや40代以上が大半な今。
 改めてECHOESとはどんなバンドだったのか、個人的に思う良い面悪い面どちらも含めて書いてみたい。

 デビューアルバムの『WELCOME TO THE LOST CHILD CLUB』から最終作の『EGGS』に渡る世界観を語弊があることを承知で今の言葉で表すと、
【チー牛が成長していく中で様々な過程を経て大人になっていく】
 という感じであろう。

 実際にECHOESデビュー当時の邦楽シーンを非常に大まかに振り返ると、アイドル的な人気がピークを迎えていたチェッカーズ、今で言う陽キャ御用達の位置にいたサザン、音楽をかじっていたヤンキー界隈ではBOOWYが注目を浴び、10代の教祖として尾崎豊が君臨していた。
 しかし、そのどれにも乗れない、日常においては家庭にも学校にも居場所がなく存在感もない、今でいうチー牛のキッズ達(当時は「失われた子供達」という表現で扱われていた)に向けて「俺達と組まないか」と手を差し伸べる形でデビューしたのがECHOESであり、キッズ達の様子を描いた『WELCOME TO THE LOST CHILD CLUB』だった。 

 続編の位置づけに当たるが、少しずつ意志を持って成長して未来を見据えるキッズ達の様子が垣間見える2ndアルバムの『HEART EDGE』。

 1st・2ndでは俯瞰の立場(ストーリーテラー)で歌詞を書いていた辻仁成が個人の思いを前面に出し始め、その結果キッズ達が様々な葛藤や友達との別れに遭遇する様子が描かれた3rdアルバムの『No Kidding』。

『No Kidding』を経て再び俯瞰の立場に戻り、LOST CHILD CLUBの所在地であった優しい場所(gentle land)から離れて苦労しつつ自立していくキッズ達の様子や決意が現れた4thアルバムの『Goodbye gentle land』。

 優しい場所を離れ、一人で社会に出たキッズが様々な痛みに出会い、その中でも新しい自分・自分の居場所を見つけようと転がり続けている5thアルバム『HURTS』。

 【友達の形】にフォーカスを当て、変わってしまった友達と再会した時の切なさや、友達や自分を含めた様々な人間の様子を集めた6thアルバムの『Dear Friend』。

 そして最後のオリジナルアルバムとなった『EGGS』では、都会に住む人間の恋愛模様を掘り下げた。『EGGS』からは愛を描いた三部作となる予定で、その第一弾でECHOESの活動が終わるなんて全く思わなかった。

 BEST盤は、EGGSの後に『GOLD WATER』、91年の解散発表後にメモリアルベストとして『Silver Bullet』、『ZOO』がヒットしてその影響で発売された『BEST OF BEST』、シングル集となる『GOLDEN BEST』の4枚がある。

 ECHOESの音楽性については、1~4枚目と5~7枚目で大きく異なる。
 初期は今にも落ちそうな綱渡りのように、繊細さと脆さが絶妙にバランスを取っていて、そこが魅力だった。
 ドラムの今川勉(以下勉)による正確かつタイトなドラムに伊黒俊彦(以下トシ)のベースが並走し、ギターの伊藤浩樹(以下浩樹)が細かく音色を刻む。そこに仁成の良く言えばシュールでクレバー、悪く言えばひねくれている歌詞と歌声が乗り、初期のECHOESの曲は完成していた。たぶん浩樹のギターの部分がそうだろうと思うが、曲の雰囲気はU2のようだとも言われていた。
 後期はダイナミックさが前面に打ち出され、特に勉のドラムに豪快さが加わって、曲に厚みが強く感じられるようになった。

 初期と後期に分けてアルバムを挙げるとすると、初期は『No Kidding』、後期はベスト盤だが『GOLD WATER』になる。
 『No Kidding』のCD盤はまさに初期ECHOESのすべてが凝縮されていると思っているし、Oneway RadioやSTELLA、JACK、といった最後のライブまで演奏された曲達が詰め込まれている。
 『GOLD WATER』はNEW VERSIONとして数曲が新録されていて、それがまた分厚い音を出し、この頃がECHOESのバンドとして頂点の時期だったんだと痛感する。

 そして全アルバムから一曲挙げるとすると、個人的には『No Kidding』収録のSomeone Like Youになる。
 この曲はベスト盤の『GOLD WATER』にもNEW VERSIONとして収録されているが、『No Kidding』収録のほうは上述のように繊細さが際立つメロディの中に、友達との別れを惜しむ歌詞が溶け込み、とてつもない切なさが胸に刻まれる。

 曲最後の英詞部分が『No Kidding』盤と『GOLD WATER』盤では異なっていて、『No Kidding』盤は
「Waitin‘ for a brand new friends everyday
Hello,goodbye to someone like you」
要約すると、
「いつも君のような友達と出会えないかと待ち焦がれている、そう、君のような誰かに」

それに対して『GOLD WATER』盤は
「I wanna see your smiling face I'll never forget you. 
I wanna hold you day and night.
I promise to love you.」
こちらも要約すると
「君の笑顔が見たいし忘れられない。昼も夜も抱きしめていたい。愛していると約束する。」

 と完全にラブソングへとシフトチェンジしている。
 でも元の歌詞は、同性の友人との友情を邂逅する内容にもとれるし、恋人と別れた後の恋愛ともとれるので、どっちに転がっても違和感は無いわけですよ。
 ちなみに91年の日比谷野音での解散ライブ【LIVE RUST】で最後の最後にSomeone Like Youを演奏したのだが、アレンジは『GOLD WATER』盤、最後の英詞は『No Kidding』盤となっていて、うん、やっぱりこの部分はこの歌詞だよ仁成、と泣きながら観客席で合唱していた。

次はECHOESというバンドそのものについて書いていきます。  


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