音楽史年表記事編97.劇音楽・序曲・管弦楽曲創作史
音楽史の起源はギリシャの吟遊詩人にあるのではないか思われます。吟遊詩人はギリシャ悲劇を歌い語っており、やがて古代演劇が行われ、キリスト教の拡大に伴い教会で宗教的演劇上演や音楽演奏が行われるようになるとともに、大衆芸能として民衆に宗教劇や道徳劇が受け入れられるようになったとされます。
音楽史において管弦楽曲は多岐にわたります。オペラにおける序曲であるシンフォニア、舞曲を中心としたフランス組曲などが様式化され、セバスティアン・バッハは管弦楽のための4曲の管弦楽組曲をします。テレマンは食卓の音楽で管弦楽曲や協奏曲、室内楽などが混在した作品を作曲しています。
古典派期には、ハイドン、モーツァルトが交響曲のほかに祝賀、式典のためのカッサシオン、ディヴァルティメント、セレナードなどを作曲し、ベートーヴェンは劇音楽のほか、演奏会用の序曲も作曲しています。
ロマン派期に、管弦楽曲はバレエ音楽や劇音楽から抜粋した数曲を組曲として演奏会で演奏されるようになり、オーケストラも巨大化しベルリオーズは劇音楽「ファーストの劫罰」を18年の月日をかけて作曲します。ドイツに生まれたメンデルスゾーンは「真夏の世の夢」や序曲「フィンガルの洞窟」などの名曲を残します。
ドイツの大作曲家ワーグナーはオペラを総合芸術に高めた楽劇を創始し、管弦楽曲では「ジークフリート牧歌」という名曲を残しています。ピアノの達人リストはピアノ用に作曲したハンガリー狂詩曲を管弦楽に編曲し、ブラームスも管弦楽のためにハンガリー舞曲を多数作曲し人気を得ていました。ボヘミアのドボルザークはブラームスの影響を受け、スラヴ狂詩曲やスラヴ舞曲、また演奏会用序曲などを作曲します。一方のロシアではグリンカによって国民楽派が誕生します。チャイコフスキーは管弦楽のための組曲や幻想序曲などの名曲を作曲します。
ロマン派後期には、さらにきら星のごとく管弦楽の名曲が誕生して行きます。北欧のグリーグはペール・ギュント組曲などを、シベリウスはフィンランドの国民的作曲家として愛国歴史劇の劇中音楽「フィンランディア」などを作曲します。ロシアのリムスキー・コルサコフは交響組曲「シェエラザード」を、一方のフランスでもドビュッシーやラヴェルによってフランス・ロマン派の名曲を生み出し、ストラヴィンスキーもバレエ音楽を組曲として演奏しています。歌曲の国イタリアでは異色のレスピーギが「ローマの松」などの管弦楽曲を作曲しています。
現代音楽ではウィーンのシェーンベルクやウェーベルンが12音技法を創始し、ピアノ曲や管弦楽曲などを作曲する一方、ロシアのプロコフィエフは子供のための音楽物語「ピーターと狼」、またイギリスのホルストは組曲「惑星」の第4曲「木星」など親しみやすい名曲も生まれ、アメリカではジャズと融合した「ラプソディー・イン・ブルー」、イギリスでは青少年のための管弦楽入門「パーセルの主題による管弦楽入門」、また日本の武満徹の「ノヴェンバー・ステップス」など、ますます多様で輝かしい音楽史が刻まれました。
【音楽史年表より】
1846年12/6初演、ベルリオーズ(42)、4人の独唱、混声6部合唱、児童合唱、管弦楽のための劇音楽「ファウストの劫罰」Op.24
1829年作曲の「ファウスト情景」をもとに1845年11月~46年10月にまとめられる。「ファウストの劫罰」はゲーテの大作戯曲「ファウスト」の第1部によるが、ゲーテが「ファウスト」の第1部の執筆に30数年かけたように、ベルリオーズの「ファスストの劫罰」も着手から完成まで18年の歳月を要した。46年12/6初演、54年パリのリショール社から作品24として出版され、フランツ・リストに献呈される。(1)
1870年12/25初演、ワーグナー(57)、室内管弦楽のための「ジークフリート牧歌」WWV103
コジマの誕生日の朝、ルツェルン近郊トリープシェンの家の階段で初演する。コジマは「ジークフリート牧歌」で目覚める。何も知らされていなかったコジマを喜ばせた。(2)
15人の楽士たちが館の階段に陣取って「ジークフリート牧歌」を演奏する。その頃作曲していた楽劇「ジークフリート」からモチーフが取られた穏やかで美しい音楽で、ふくよかな響きはまさに円熟したワーグナーそのものである。(3)
1888年7/26初演、リムスキー=コルサコフ(44)、交響組曲「シェエラザード」Op.35
千夜一夜物語の各物語は夜に始められ朝に終わることになっているが、この組曲の4つの楽章も明記はされていないが、それぞれ夜の物語から始まり暁とともに終わる。(4)
リムスキー=コルサコフは4つの楽章でサルタン・シャーリアールとシェエラザードの主題を進行の重要なポイントとし、いわばベルリオーズの幻想交響曲その他における固定観念と同じようなもので、管弦楽の点でも、ベルリオーズの影響を濃く見せている。このシェエラザードはリムスキー=コルサコフの数々の作品の中で最も広く演奏され、親しまれている。同年、ペテルブルクで初演される。(5)
1892年初演、グリーグ(49)、管弦楽のための「ペール・ギュント」第2組曲第4曲「ソルベイグの歌」Op.55の4
第4幕の歌曲が器楽に置き換えられる。原曲の劇音楽「ペール・ギュント」Op.23ではペールのふるさとの森の中の小屋でソルベイグが機を織りながら歌うが、この歌は俳優によって歌われてはならず、歌手が舞台裏で歌わなければならないとされている。オーケストラも舞台裏で伴奏する。(6)
1899年11/4初演、シベリウス(33)、管弦楽のための「フィンランディア」Op.26
ヘルシンキのスウェーデン劇場で上演された愛国歴史劇「歴史的情景」中の劇中音楽として、作曲者自身の指揮、ヘルシンキ・フィルハーモニー協会の演奏で初演される。シベリウスは1900年付随音楽の最終部を改訂し作品26を与える。同年11月カルペランにより提案されたフィンランディアという題名が最終的に付けられ、この題名が1901年2月の管弦楽版で初めて用いられる。1905年ブライトコプフ&ヘルテル社から出版される。(7)
1919年2/27初演、ホルスト(44)、管弦楽のための組曲「惑星」第4曲「木星(ジュピター)」:快楽の神Op.32の4
ロンドンのクイーンズ・ホールにおいてロイヤル・フィルハーモニー協会主催の公演において、エードリアン・ボールトの指揮によって公開初演される。第4主題はイギリスの愛国的な賛歌として広く歌われている。(4)
1946年10/15初演、ブリテン(32)、青少年のための管弦楽入門・パーセルの主題による変奏曲とフーガOp.34
サージェント指揮リバプール・フィルハーモニック管弦楽団によって初演される。映画は11/29公開され、サージェントが指揮と解説を行いロンドン交響楽団によって演奏される。(4)
【参考文献】
1.作曲家別名曲解説ライブラリー・ベルリオーズ(音楽之友社)
2.ワーグナー事典(東京書籍)
3.堀内修著・ワーグナーのすべて(平凡社)
4.最新名曲解説全集(音楽之友社)
5.作曲家名曲解説ライブラリー・リムスキー=コルサコフ(音楽之友社)
6.作曲家別名曲解説ライブラリー・北欧の巨匠(グリーグ)(音楽之友社)
7.作曲家別名曲解説ライブラリー・北欧の巨匠(シベリウス)(音楽之友社)
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