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スイスの公立音楽学校と採用試験の話

今私が持っている仕事の中で最も大きな割合を占めている、公立音楽学校の話。スイスの音楽学校のシステムは、日本で一般的に知られているそれとは少し違う。

公立音楽学校の立ち位置

私がルツェルンで修了した音楽教育(Musikpädagogik/ Instrumental- und Gesangspädagogik)を終えた学生たちの多くが、この音楽学校に勤務するために教員募集が出るのを待つ。
通えそうな範囲で空きはなかなか出ないので、見つけ次第即応募するのが吉。
最初は条件なんか気にしている場合じゃないことが多い。とにかくキャリアをスタートさせるために、生徒が少ない学校でも始めることが大事。
スイスの音楽学校はヤマハの音楽教室と違い、州と市が共同で運営している音楽学校だ。ヤマハが私立だとしたら、こちらの音楽学校は公立ということになる。
財政面でも、多くの音楽学校の費用は7割ほど州と市から捻出され、生徒自身の負担は3割で済む。楽器や歌のレッスンは高額になることが多いため、これは子どもを持つ多くの家庭にとって非常に助かることだ。
さらに学校によっては無料で楽器の貸し出しまで行っていることがある。
楽器や歌の個人レッスンの費用を行政が負担するというのはおそらく日本にはないシステムで、それがたくさんの生徒を集め、ひいては私達の雇用にも繋がっている。

1番人気の楽器はピアノやギターで、生徒数も多い。
逆に少ないのが管楽器。歌の人気はそこそこだがピアノと比べると圧倒的に少ない、というのが現状。
だから多くの歌の教員はいくつも学校を掛け持ちしている。私も、公立の学校だけで4つの勤務先がある。

採用試験

採用までの流れは、

  1. 応募

  2. 招待

  3. 面接と模擬レッスン

  4. 結果発表

という感じ。

まず応募する際に、志望動機や得意分野など、アピールポイントを書いた手紙とともに、CVや資格、卒業証明、推薦書などの書類をまとめて送る。
書類審査が通ったら面接に招待される。
ちなみに、在学中でまだ音楽学校で働いた経験がなかった頃は、書類審査で落とされるのが普通であった。10校以上は書類審査で落とされたと思う。そこから抜け出して招待を貰えるようになるには、少しの期間でも良いから代理で働く経験を積むことが良い。病気等の理由で、歌の先生の代理を探している、という話が回ってきたら、多少無理してでも引き受けることが、今後のキャリアに繋がっていく。

書類を提出して招待をもらったら、コネ採用等でなければ、面接と模擬レッスンをする。
模擬レッスンでは20〜30分程度、学校側が用意した生徒をレッスンし、その様子を審査される。模擬レッスンの訓練は在学中にもっと嫌なシチュエーションで何度もやらされるので、個人的にそれほど緊張はしない。こういうときに、厳しく、ときに辛かった大学院の環境に感謝の気持ちが芽生える。

模擬レッスンをやり、面接で根掘り葉掘り訊かれた後、1〜2週間ほどで電話で採用・不採用が告げられる。

給与と休暇

給料は、月給で定額が出る。嬉しいですね。
夏休み、秋休み、クリスマス休み、スポーツ休み、イースター休み、春休み、その他宗教関係の祝日もあるので、かなりたくさん休める印象。大型休暇だけで年間14週間ほどある。

給料の内訳は、レッスンをしている時間に90%、のこりの10%はレッスンの準備、生徒の親との連絡、そして私自身の練習時間に支払われている。少しではあるが、自分の練習時間にも事実上お金が発生しているというのも嬉しい。

同僚の声

大学院で一緒だった友人達や、勤務先の同僚など、各地の音楽学校で働いている先生達から良く聞くのが、学校で教えるのは60%(週3日)くらいまでにして、あとは自分の演奏活動に使いたい、という理想のスケジューリング。
人に教えるのはすごくエネルギーを使うし、自分も演奏家なのだから、練習したりレッスンに行ったり演奏会に出たりもしたい。

演奏家で居続けるというのは、大学を卒業後にこそ難しくなってくる。生活できるだけのお金を稼ぎながらどうやって演奏家で居続けるか、私と同世代の同僚は模索している人が多い。

おわりに

今回は、スイスの公立音楽学校のことを紹介した。
音楽学校については、レッスンや生徒とのコミュニケーションについてなど、いろいろネタは尽きないのでまた投稿するつもり。


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