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ゆかりんミニアルバム『I love it♡』の感想

 たぶん浦島太郎って帰郷した時はこんな気分だったんだろう。2024年5月29日の夕方、帰宅途中。ただし、あの絵本で読んだ御伽噺の太郎氏と今の私が決定的に違うのは、この4日後から我々にとっての竜宮城的なものがやってくるということだろうか。
 べつに虐められていた亀を助けたわけでも、海の底の豪邸を訪ねていたわけでもない。5月28日の早朝から5月29日の夜まで出張で自宅から遠く離れた場所にいて、そのうえ夜は遅く朝は早いスケジュールだったせいで、近所のセブンイレブンにフラゲ日の朝には届いていたはずの新譜を受け取れないばかりか、Xのタイムラインすらまともに見ることのできない1日半を過ごしていた。Cana aria曲のサブスク解禁、ハイレゾ配信開始、バニラバのダンス動画公開、インタビュー記事公開、そしておそらくご本人様もとても忙しいと思われるなか数日ぶりに来た伝書鳩、タイムライン上の喧騒を垣間見てはいたのだが、情報処理が追い付かない。
 自宅最寄り駅まで戻ってきて、そのままセブンイレブンに向かって行って『I love it♡』を受け取り、自宅で”情報”を1つずつ処理していく。サブスクを開けば『かくれんぼ。』を再生できるようになっているし、レコチョクを開けばハイレゾアルバムの欄に『Altoemion』がある。そして、バニラバのダンスは何度繰り返し見ても、なかなか頭に入ってこない。ライブで何曲も歌いながら踊っているゆかりんの記憶力と運動神経すごすぎる……。記憶も運動神経もまるで怪しい20代半ば男性の私は果たして何公演目にマスターできるのやら。(とりあえずミラーで覚えたんですが、反転しろといわれたらしばらくは対応できない気がしています)
 さて、音楽ナタリーの記事は後で読むことにして、そのほかのキャッチアップは終わった(と自分では思っている)から、歌詞カードを開いてCDを聴くこととしようか。


※以下、リリース日とその翌日に繰り返しCDを聴き込んだ段階、まだHBツアーのセトリも内容も全く知らない段階での感想とご理解ください。

Poppin’ Magic

 鍵盤の爽やかなイントロとゆかりんの心地よいコーラスから曲が始まっていく。それは星が沈んで朝風が吹いて、日が昇ってくるようで、カーテンを開きながら口ずさんでいるゆかりんの映像が脳裏に浮かんでくる。そのまま快晴の空に飛び立つように加速していって、大きな花が開くようにリズミカルなサビが続いていく。このまま未来へ向かってどこまでも向っていけそうな気がしてくる。
 特別で最高で魔法みたいな2人の日常が続いていくことの楽しさと感謝。そこに”忘れないで さみしさまで 消えてくわ”とアクセントのように垣間見えてくる部分がうまく効いていて、全体の解像度が上がっていく。最後の”こんなに私のほんと 好きでいてくれて ありがとう”が直球的に心のド真ん中を貫いてくる。いかにもライブのオープニングに映えそうな曲で、早くライブで聴きたい。

Sweet alert

 少しトリッキーなイントロから始まる”Baby don’t runaway”のコーラスで完全にゆかりんのペースに乗せられてしまう。一見かわいさに包まれているが怒りや哀しみの成分が少しだけ乗った歌声が続くAメロ、Bメロに続いて、かわいさに甘さが乗るサビの二面性がクセになる。上手く言語化できないのが悔しいが、気が付けばこの曲のメロディに取りつかれて虜になっている。何度も繰り返し聴きたい。Poppin’ Magicからの2曲でこのアルバムにのめり込んでしまった。

トーキョーキャンディーガール

 トラックリストを眺めて一番目を引いたのはこの曲だった。2曲目に続いてどんな仕掛けが並んだ曲が来るのかと聴き始める。サクマリョウさん作曲、川島亮祐さん作詞の曲は確率100%で好きなのだが、この曲も例外ではない。去年何度も聴いたような洗練されたイントロを聴いていると夜の大通りに時折ライトが揺らめいてくるような情景が浮かんできて、そこから始まる叙景的な歌詞が際立って聴こえてくる。早速”並ぶ”と”ラブ”で韻が踏まれているところもそうだが、一聴するだけではなかなか気が付けない自然な仕掛けがたくさんあって歌詞カードを読んでいて驚かされる。言葉選びが発音をベースに計算されている感じがあって、それがゆかりんの歌声ととてもあっているのか、歌声を音として拾っていくととても心地いい。そしてなによりも、サビを覆う “トーキョーキャンディーガール”の中毒性がとても高くて、無限に脳内再生されてしまう。

あれもこれもFlexibility

 エレクトロニカ的で何かが流れていくようなイントロから優しい歌声が流れてくる。時折聴こえてくる水がはじけていくような音もとても印象的で、平穏で多幸感のある歌詞とも合う。Bメロは一気に加速していってクラップも入り、この歌詞の主人公のかわいい部分が一気に降ってくるように畳み掛けてくる。そして”ほんとの私 内緒”で完全にノックアウトされてしまう。そこから少しの間をおいて虹色の星が瞬くようなパワーとエネルギーがあるサビが続いていく。”さみしい涙”も化学反応として素敵なものにできてしまうのが、この曲の明るくて強いところなのだと思う。とてもライブ映えしそうな気がするし、聴いていて気分が上がってくる。

Paradoxx.

 幻想的で空間が広がるようなイントロで心が一気につかまれてしまった。この曲がアルバムの中で一番好きかもしれない。少し暗さと重さが乗ったゆかりんの歌声が流れ始める。これくらいの音程のゆかりんの声も、これくらいのテンポの曲も好きな私にとっては、まさに最高の曲が来た。
 さて、一聴して冷静に歌詞カードを読もう。好きの感情の内側を詰めていったときに突き当たってしまう二面的な部分の裏側を深追いしすぎてしまいそうな危うさ。その二面のうちの表側の部分は「あれもこれもFlexibility」が近いのかもしれないが、この曲は裏側。普段は内緒のその部分を深追いしすぎると気持ちが遠のいていくという感覚、この曲のテンポ感も相まって平均台の上を全力疾走しているような感覚がある。

Vanilla Lover

 ラジオで一聴した時、とてもかわいい曲だな、○○さんが作詞かな、なんて勝手に想像していたのだが、オタクの勝手な想像なんて当たったためしがないもので、ブックレットの作詞・作曲のクレジットを見て驚いた。サクマさん川島さんの2人だったとは。何曲も聴き込んでいるはずなのだが、全く私の耳はあてにならないらしい。好き好きの連呼に脳がやられてしまっていたと言い訳しておく。
 かわいさに屈することなく歌詞カードを見ながら追いかけていくと、仕掛けが山ほどあることに気が付く。恐らくこの曲の歌詞で鍵になるのはサビの好きの連呼に続く”I scream”なのだが、好きという感情の叫び、そして歌詞のモチーフになっているice creamを自然にかけ合わせている。そして聴き逃してはならないのは2番のサビの最後の”溶けるように 天に召しやがれ♡”で、かわいさに紛れて聴き手側は天に召されてしまっている。
 この曲を聴くついでにYouTubeを立ち上げて、ダンスを復習しておく。これは厳しい戦いになりそう。23時台に自室でやる”運動”にしては激しすぎるから、クールダウン用にバニラアイスでも買っておこうか。

Wander habit

 タイピングする手と思考が止まった。こんなにも直球的でかわいい曲が許されるのだろうか。受け止めるのに精一杯で何の感想も出てこなくなってしまう。
 等身大のウサギ目線で書かれた、主に対して100%懐いた歌詞。それを奏でる小動物的で可憐な歌声。それが組み合わさったものの素晴らしさを定量的に表す単位を私は知らないのだが、それを計測した時に計測器がレンジオーバーするのは間違いない。何を言っているか自分でも分からなくなってきたし、これ以上何か書くのは野暮だろう。

好きしかありえない

 表彰式に鳴り響くファンファーレのような晴れやかなブラスが特徴のイントロから軽快な曲が始まる。ライブ終盤の照明が輝いて、銀テープが舞って、ピンク色のペンライトが揺れて、そしてゆかりんが煌めいている光景がはっきりと脳裏に見えた。相手に真っすぐ突き進んでいって、そして2人で未来へ歩いていくようなストレートで明るい歌詞、そしてどんな場面でも映える明るいメロディラインとオケ、こんなに輝いている曲が他にあるだろうか。この曲にたくさんの想い出が乗った後、改めて歌詞カードを読みながらこの曲はどう聴こえてくるのだろうか。

全体を通して

 出張帰り、寝不足の状態で歌詞カードを開きながら曲を聴くべきではないのかもしれない、実は最初に一聴した時にはこのミニアルバムはあまりピンとこなかったのだが、歌詞カードを閉じてアルバムをもう1周してみると、どの曲も心に浸透してきて、徐々に好きな曲が8曲増えていった。ちょうど1年前の『かくれんぼ。』はどの曲も一目惚れだったのだが、今回のミニアルバムは聴けば聴くほどどの曲も好みに思えてくる。2019年に王国民になって、アルバム・ミニアルバムでいうと6枚目になると思うのだが、個人的には今までになかったパターンで、また新しい面を見せてもらった気がしている。
 このアルバムの曲がどれくらいライブで歌われるか分からないのだが、今回のツアーで何度も聴いた後、もう一度聴くとどのように聴こえてくるのだろうか。秋くらいに振り返ってみようか。


(6/4追記)
 今、どういう言葉をここに書き綴るべきなのか、何も書かないでおくことこそ正解なのではないかという気もするのですが、少しだけここに書かせてください。

 ゆかりさんが早く元気になりますように。
 次の未来で、いつもの、万全に整ったステージと客席があって、最高到達点のものが完成されるのを楽しみにしています。今回も、ゆかりんのペースに合わせていきますね!

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