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間質性膀胱炎と膀胱痛症候群で鍼灸治療効果は異なる?


間質性膀胱炎に対する鍼灸治療は膀胱上皮の病変により異なるのか?


2021年、初の治療薬”ジムソ”(ジメチルスルフォキシド/DMSO)の登場により、グッと高まってきた感のある間質性膀胱炎の認知度💡

ですが、まだまだ全ての患者さんが症状から解放される、とは行かず、さまざまな補完代替医療・民間療法を併用している患者さんが多い印象です。

今回は補完代替医療の中でも、ひときわ良質なエビデンスが集積されつつある鍼灸治療について、私見に基づき解説していきたいと思います。



当院での間質性膀胱炎の治療効果


2021年1月の日本女性骨盤底医学会にて私が発表した、

女性の間質性膀胱炎に対する鍼治療はハンナ病変の有無で差があるのか?

という演題をもとに解説したいと思います。

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国内の間質性膀胱炎/膀胱痛症候群の診療ガイドラインにおいて

鍼治療の推奨グレード:C1

有効な治療法が無いため、臨床医は患者さんが希望すれば勧める、という位置付けとなっています。


これは、まだ鍼治療の良質なエビデンスが少ない為でもあり、

今後の課題としては、よくデザインされた比較試験が必要であり、また、

”間質性膀胱炎と膀胱痛症候群での効果の違い、つまりは、ハンナ病変の有無に分けて効果を示していく”

ことだと思います。

最近、(ハンナ型)間質性膀胱炎と膀胱痛症候群は症状は似ているけれども、まったく病態の異なる疾患、であることが国内外から発信されています。

間質性膀胱炎には、ハンナ病変があり、膀胱間質に組織学・病理学的にも示されている通り、「炎症」があるけれども、膀胱痛症候群には「炎症」がない(膀胱に異常がない)ということです。

この両者を明確に分けて考えていきましょう、という最近の流れです。

おそらく、男性の慢性前立腺炎 / 慢性骨盤痛症候群は、膀胱痛症候群とほぼ同義と考えて良いと思います。(膀胱水圧拡張術の際の粘膜出血は、診断の必須所見では無くなったため。)

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しかしながら、現段階では、国際的にもハンナ病変の有無により、鍼灸治療効果を検証したという報告はありません。

また刺激するツボの位置は、下腿部の脛骨神経に対する刺激が主流で、あまり仙骨部の検討はなされていません。


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そこで当院では、女性の間質性膀胱炎と膀胱痛症候群(Interstital Cystitis:IC / Bladder Pain Syndrome : BPS)に対し,ハンナ病変の有無ごとに仙骨部鍼刺激の有効性を検討し, 統合医療としての適応について考察しました。


検討対象

難治性の女性の間質性膀胱炎(IC) / 膀胱痛症候群(BPS):57例に対し、泌尿器科的な治療と鍼治療による併用療法を行いました。

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ハンナ病変を有する間質性膀胱炎(IC)19例ハンナ病変のない膀胱痛症候群(BPS)25例が検討対象です。

対象者の背景として、平均年齢は両群で差はありませんが、IC群は罹病期間が約5年と有意に長く、またIC群の方が、症状スコアが有意に高くさらに最大および、平均1回排尿量は有意に低く、BPS群より重症度が高いことが特徴的です

泌尿器科的な治療はリドカインの膀胱内注入療法、IPDカプセルを主とした治療をを継続しており、制限は掛けておりません。

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鍼治療の介入は週1回の頻度で12回行いました。

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評価

排尿日誌を介入前と、12週後で回収し、

間質性膀胱炎の症状スコア(ICSI)・問題スコア(ICPI)は介入前、4週、8週、12週と計4回評価しました。

IC症状,問題スコア


鍼刺激方法

鍼刺激方法は、左右両側の第3後仙骨孔部から、長さ60ミリのディスポーザブル鍼を用いて、仙骨面に沿うように頭部方向に60ミリ刺入し、徒手的に10分間の仙骨骨膜刺激を行いました。

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症状スコアの推移


統計解析は一元配置分散分析ののち、多重比較検定を用いています。


まず症状スコア(ICSI)の推移ですが、

IC群(ハンナ病変アリ)では、介入前平均14.5から12週時10.0へと推移し、4週目12週目有意な改善を認めました。

一方、BPS群(ハンナ病変なし)では、介入前9.2から12週時5.0へと推移し、4、8、12週目いずれの時点においても有意な改善を認めました。

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次に、介入前後での重症度の変化ですが、

IC群(ハンナ病変アリ)では、介入前約7割にあたる13例が重症でしたが、12週後 重症は4例に減少し、約8割の症例が軽症・中等症へ移行しています。 

BPS群(ハンナ病変なし)では、8割にあたる20例が軽症に移行し、重症例は無くなりました。

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発症から早期の方が鍼治療効果が高い?


次に、このグラフは、縦軸が"症状スコアの変化率"を示し、罹病期間との関係について、症例ごとにプロットしており、0%に近づくほど、症状の改善率が低いことを示しています。

そうしますと、IC群BPS群ともに、罹病期間が長くなるほど症状の改善率が低くなるという、負の相関を認めました。

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生活の質はハンナ病変が無い群で早期に改善


次にQOL(生活の質)尺度の問題スコアですが、

IC群では12週目で有意な改善を認めたのに対して、

BPS群ではより早期に8週以降に、有意なQOL改善を認めました。

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1回排尿量の変化


排尿日誌から得られた1回排尿量の推移です。

平均1回排尿量は、IC群・BPS群共に平均40ccほどの増加ですが、

最大1回排尿量に関してはBPS群の方が顕著に増加する結果となった。

これはハンナ病変がある群では、萎縮膀胱の症例もあり、膀胱コンプライアンス(伸びやすさ)が低いことが一因と考えられます。

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考察および結語


●本検討からQOL改善までに要する期間はハンナ病変の有無で異なり、ハンナ病変を有するICでは12週、ハンナ病変の無いBPSにおいては8週程度の継続治療が必要と考えられた.

●IC、BPSともに罹病期間が概ね4年以内の症例には、仙骨部鍼刺激の併用は統合医療として適応するのではないかと考えられた。




烏丸いとう鍼灸院 院長:伊藤千展

京都市中京区元竹田町639-1 友和ビル5F
TEL: 075-555-7224


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