見出し画像

間質性膀胱炎や慢性前立腺炎に伴う陰部神経領域の痛みに関して


今日は間質性膀胱炎や慢性前立腺炎に伴う
「陰部神経領域の痛み」について私見を書いてみようと思います。


当院に来院される間質性膀胱炎や慢性前立腺炎の方のほとんどは、泌尿器科での治療で改善の無かった方々ですので、難治例が大半と言えるでしょう。
鍼治療で劇的に改善する方もありますが、頭を抱えてしまうコトも実際あります。。


その悩みの1つは、前述の「陰部神経の痛み」です。

陰部神経とは、外陰部一帯・尿道・肛門などの知覚を司り、また肛門や尿道の括約筋の支配も担う体性神経の1つです。

鍼治療継続により、膀胱痛(下腹部痛)・頻尿・尿意切迫感・尿失禁は改善してきたにも関わらず、陰部神経領域の疼痛(尿道・肛門・会陰部・坐骨周辺の痛みetc)が頑固に残るケースをしばしば経験します。



当院での基本治療である、仙骨部鍼刺激(第3後仙骨孔部)で改善例は多いですが、難渋するケースもあり、これのみでは不完全…というのが本音です。

陰部神経鍼通電刺激は尿道不快、会陰部痛、肛門痛などに有効なケースが多いのですが、尿意切迫感が強い方には、かえって刺激となることもあり、導入は慎重に選択しないといけないんですよね。


そこで、陰部神経について解剖学的見地に立ち返って考え直してみましょう。

(膀胱知覚や尿道知覚はいったん置いておいて…)


以下、陰部神経をとりまく骨盤周囲の解剖図です。

画像1

陰部神経は、仙骨神経叢から起こり、S2-S4 由来の線維を運びます。
末梢は、①下直腸神経 ②会陰神経 ③陰茎背神経(女性の場合、陰核背神経)
の 3 つに分枝します。



上の解剖図からも分かるように、

陰部神経って筋肉や靭帯に絞扼されてるケースもあるんじゃない??

って考えられますね。

過去の文献をみると…その関連性を示すものがありました。
2007年のNeurourology and Urodynamicsより

Popeney C et al. Pudendal entrapment as an etiology of chronic perineal pain: Diagnosis and treatment. Neurourol Urodyn 2007; 26: 820-7.


これによると
陰部神経には、その走行経路において圧迫が生じやすい部位が 2 つ存在するとの記載があります。

① 仙棘靱帯と仙結節靱帯で挟まれている部位
② 陰部神経が内閉鎖筋を覆う筋膜を走行する際に通る陰部神経管部



経験的にも、間質性膀胱炎や慢性前立腺炎の罹病期間が長期化すると、殿部周囲の筋群が過緊張を起こしているケースはよく経験するので納得出来ます。
chronic pelvic pain syndrome : 慢性骨盤痛症候群と言われる所以ですね)


あと、もう一つ付け足すとしたら、陰部神経は梨状筋下口から出るので、
梨状筋の過緊張との関連もあるんじゃないか??
とも思います。


これらのことを踏まえて、最近の治療では仙骨部鍼刺激・陰部神経鍼通電に加え、
殿部筋群(梨状筋や内閉鎖筋)のリリース靭帯部への刺鍼アプローチも追加するよう試みると、治療成績がよくなり、「会陰部痛・肛門痛が消えた!」など手応えを感じるところです。


また、意外と多い、睾丸痛(陰嚢痛)については、陰部神経ではなく、腸骨鼠径神経、陰部大腿神経の関与もあり、慢性前立腺炎が原因では無いケースも多いと考えられ、その刺鍼法についてはここでは割愛(後々まとめていきたいと思います)。


下図は「慢性疼痛の悪循環」の模式図です。

画像2


ザッとまとめると、、

痛みが慢性化すると、知覚神経のみならず、運動神経にも反射性に興奮がおこり、同高位支配の筋肉を緊張させる。結果、神経は絞扼され、血流にも影響する。
間質性膀胱炎や慢性前立腺炎では下部尿路における知覚亢進という病態(原因不明)に加え、慢性化により筋・靭帯・知覚神経などの原因が明らかな因子がさらに疼痛を悪循環化し、慢性骨盤痛という病態を形成しているのではないか、というふうに考えられます。



2021年欧州泌尿器科学会の慢性前立腺炎 / 慢性骨盤痛症候群ガイドラインでは、理学療法士による、殿筋群や骨盤底筋群に対する筋筋膜トリガーポイントリリースの有効性も掲載されております。

(以下 EAU Guidelines 2021 : Chronic Pelvic Painより抜粋引用)

慢性骨盤痛の管理には、筋筋膜トリガーポイントの治療を考慮する必要がある。
慢性的な骨盤の痛みと骨盤底筋の機能障害を持つ患者には、筋肉をリラックスさせる方法を学ぶことがとても役に立つ。そうすることで、痛み-痙攣-痛みの循環を断ち切ることができる。筋肉が短縮している場合、リラックスするだけでは不十分で、長さと機能を取り戻すには、筋肉のストレッチが必須である。骨盤底筋疼痛症候群に対する理学療法に関する研究は、不十分であるが、前立腺または膀胱の痛みを持つ患者を対象に、筋筋膜理学療法と全身マッサージによる1件の盲検RCTが実施された。マッサージによる治療に対する全体的な反応率は、膀胱痛群よりも前立腺群で有意に良好であった(57% vs 21%)。前立腺痛の群では、2つの治療群間に差はなかった。膀胱痛群では、筋膜治療がマッサージより有意に良好であった。マッサージは、前立腺痛のグループにおいてのみ、不満を改善した。


間質性膀胱炎や慢性前立腺炎 / 慢性骨盤痛症候群の患者さんは、マッサージを日常的に受けられている方も多いかと思います。泌尿器科受診された際に、マッサージを推奨されることは少ないかと思いますが、米国や欧州では推奨されている治療でもありますので、効果を実感されている場合は続けて頂いて良いと考えます。



烏丸いとう鍼灸院 院長:伊藤千展

京都市中京区元竹田町639-1 友和ビル5F
TEL: 075-555-7224


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?