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慢性前立腺炎に対する鍼と薬物療法、どっちが効果的なのか?

2023あけましておめでとうございます🎍
新年初投稿です。
本年も烏丸いとう鍼灸院をどうぞよろしくお願い致します^ ^


本noteでは、今年も主に間質性膀胱炎/膀胱痛症候群(IC/BPS)慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群(CP/CPPS)を中心に、おしっこ問題に関する新たな知見について、ゆるりと発信していきたいと思います😊

本記事を読んで来院されたり、遠方から当院LINEにお問合せを頂く患者さんもあり、とても励みになっています💡ありがとうございます。


慢性前立腺炎に対する鍼治療に関する最新のメタ解析


2022年12月、我々鍼灸師にとって重要な、中国発のメタアナリシスが発表されましたので、今回はその内容について書きたいと思います。

欧州泌尿器科学会(EAU)EUROPEAN UROLOGY OPEN SCIENCEに収載された論文で、タイトルは、Acupuncture for Chronic Prostatitis/Chronic Pelvic Pain Syndrome: A GRADE-assessed Systematic Review and Meta-analysis.

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2666168322021267?via%3Dihub


「慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群に対する鍼治療。-GRADE評価によるシステマティックレビューとメタアナリシス-」です。

近年、慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群に対する鍼治療に関する無作為化比較試験(RCT)が増加してきておりますが、本論文はそれらを統合し、臨床効果について,
一体どこまでわかってきているのか?
論じた内容になっています。


患者さんによく聞かれる…

ぶっちゃけ、薬と鍼ってどっちが効くの?
薬と鍼治療のコンビって実際どうなん?


こんな疑問についての答えが示された論文となっています。
では、順を追って見ていきたいと思います。


本論文の背景

CP/CPPS の病態はいまだ不明であり、治療は、CP/CPPS患者のQoLを向上させることを目的とする。薬物治療には、抗菌薬、a-ブロッカー、抗炎症剤、植物療法、5α還元酵素阻害剤、アロプリノールなどがあるが、臨床効果が不十分であること、薬剤の副作用など問題点が多い現状である。

一方で、鍼治療/電気鍼治療は、慢性前立腺炎に対する非薬物療法に関する系統的レビュー(Juan VA Franco et al. Cochrane Database Syst Rev.2018)で、慢性前立腺炎の症状を改善し、かつ有害事象が少ないことが明示された 。
鍼はCP/CPPSに対する、長期的な効果、特に痛みを和らげる効果的な治療法であることを、現在のエビデンスが支持しているものの、試験間のバイアスリスクが高く、エビデンスは限られている。


目的

新たに発表されたCP/CPPSに対する臨床研究を考慮し、CP/CPPSに対する鍼治療の有効性と安全性を再評価し、これまでのメタアナリシスを更新すること。


方法

1. 選択基準

2021年11月11日までにデータベース(MEDLINE,CENTRAL etc…)を検索。
検索語は「慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群」「無作為」「対照」

ランダム化比較試験(RCT)のみ対象

◉CP/CPPSカテゴリーIII(尿路感染症を伴わない尿路性器痛、心理的問題を伴う/伴わない下部尿路症状、過去6ヶ月間に少なくとも3ヶ月間の性機能障害)と診断された参加者

◉対象となったRCTの比較内容は以下の通り
(1) 鍼治療+薬物療法 VS 薬物療法
(2) 鍼治療 VS 薬物療法
(3) 鍼治療 VS シャム刺激(偽鍼)

◉鍼の種類は、皮膚に刺す鍼(鍼灸、電気鍼、温熱鍼、腹部鍼、耳鍼など)で種類を問わない。

◉刺入しない鍼(レーザー鍼、ツボ押し、経皮神経刺激)、漢方併用は除外。


2. 文献検索と選択

最初の検索で計 2577 件が集まり、不適合な文献をスクリーニングした結果、12件の論文が含まれた。

メタ解析に含まれたRCTの特性


結果(主要結果のみ)

1. NIH-CPSI (慢性前立腺炎症状質問票)トータルスコア

鍼と薬物療法の併用が単独より有意に優れ(SMD = -0.91, 95% CI [-1.29, -0.54], p < 0.05; Q [1] < 0.001, p = 0.99, I2 = 0),研究間の不均一性は低いことが示された。

鍼治療単独は薬物療法よりも有意に有効であったが、研究間の異質性は高かった(SMD = -1.01, 95% CI [-1.63, -0.38], p < 0.05; Q [5] = 36.49, p < 0.001, I2 = 86.90% )。

鍼単独の有効性も、偽鍼治療単独の有効性よりも有意に優れた(SMD = -1.20, 95% CI [-1.69, -0.71], p < 0.05; Q [5] = 36.09, p < 0.001, I2 = 85.91%) が、高い異質性を示した。感度分析では、異質性は研究間の治療時間や鍼治療方法の違いに起因すると推測された。


2. NIH-CPSI : 疼痛ドメイン

鍼と薬物の併用は、薬物単独より有意に優れ、不均一性は低。(SMD = -0.85, 95% CI [-1.23,-0.48], p < 0.05; Q [1] = 0.01, p = 0.93, I2 = 0)

鍼単独は薬物より有意に有効で、研究間の異質性は低。(SMD = -1.04, 95% CI [-1.29, -0.79], p < 0.05; Q [4] = 3.93, p = 0.42, I2 = 1.27%).

鍼の効果は偽鍼より有意に優れるが、研究間の異質性は高かった。(SMD = -0.93, 95% CI [-1.43, -0.44], p < 0.05),Q [5] = 31.96, p < 0.001, I2 = 87.17% )


3. NIH-CPSI : 排尿ドメイン

鍼単独は偽鍼よりも有意に有効であったが(SMD = -0.76, 95% CI [-1.06, -0.45], p < 0.05; Q [5] = 16.24, p = 0.01, I2 = 65.79% )

◉排尿ドメインに関しては、薬物療法よりも優れていなかった(SMD = 0.35, 95% CI [-0.57, 1.28], p > 0.05; Q [2] = 17.12, p < 0.001, I2 = 88.53% )。


4. NIH-CPSI : QOLドメイン(生活の質)

鍼治療単独は薬物治療よりも有効であった(SMD = -0.68, 95% CI [-1.27, -0.09], p < 0.05; Q [2] = 6.99、p = 0.03)。 99, p = 0.03, I2 = 71.98%)

偽鍼と比べても有意な差があった(SMD = -0.75, 95% CI [-1.03, -0.47], p < 0.05; Q [5] = 14.04, p = 0.02, I2 = 59.94%).


考察

この系統的レビューの結果は,鍼治療がCP/CPPSの特にNIH-CPSIトータルスコアと疼痛スコアの減少に有益である可能性を示唆した。

このレビューでは、鍼治療 VS 偽鍼、鍼治療 VS 薬物療法、鍼+薬物療法 VS 薬物療法と比較したRCTを対象とした。全体のROB(risk of bias)に含まれる12試験のうち、7試験は''高バイアスリスク''、5試験は''何らかの懸念''と、GRADEの確実性は低〜中程度と評価された。


鍼治療 vs 偽鍼、鍼治療+薬物療法 VS 薬物療法を比較した試験では、NIH-CPSI 総スコアのCohen's d の効果量はそれぞれ-1.20(95%CI [-1.69, -0.71])と-0.91(95%CI [-1.29, -0.54])で、ともに 0.8 超で群間の大きな差異を示している
(NIH-CPSIスコアを評価する効果量は、Cohen's dにより、小、中、大の尺度はそれぞれ0.2、0.5、0.8と定義。)

その上、効果量はNIH-CPSI疼痛ドメインの減少において大きく(鍼+薬 vs 薬:-0.85、95% CI [-1.23、-0.48]、鍼 vs 偽鍼:-0.93、95% CI [-1.43、-0.44])、NIH-CPSI排尿ドメインとQoLドメインのスコア減少においては中程度であった(効果量 0.5<0.8 )。



まとめ


いかがだったでしょうか?
簡単にまとめておきましょう。

◉薬物療法と比較すると、鍼治療は慢性前立腺炎患者のNIH-CPSIの総スコアと疼痛スコアを改善するのに効果的

薬物治療単独、鍼単独よりも、併用する方が臨床効果は大きい!
(併用の弊害は無く、むしろ有益)


最近の非薬物療法の臨床研究では、体外衝撃波治療(Shock Wave Therapy)もCP/CPPSに良好な効果を示し、ネットワークメタ解析の結果、短期的な効果では鍼治療より優れていることが示されています。今後、体外衝撃波療法と鍼治療のどちらを推奨される状況になっていくかは不明ですが、注目すべき領域でしょう。

ただ、日本国内で慢性前立腺炎に対しShock Wave を行なっている施設はまだ聞いたことがありません。
現段階では鍼治療が簡便で、低コストかつ安全に行える治療法と言えるかと思います。薬剤との併用効果が大きいことも良い点と言えるでしょう。



烏丸いとう鍼灸院  院長:伊藤千展

京都市中京区元竹田町639-1 友和ビル5F
TEL: 075-555-7224



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