見出し画像

[星凪の地] を映像から掘り下げてみる

「星凪の地」という作品をまずは視聴してほしい。
羽子田チカ × Niwa - 星凪の地 MV

この6分間の大作を観たときの感動は衝撃的だった。まず心に湧いたのは、この作品を隅々まで創り込んだクリエイターたちへの尊敬の念。そして次に、この作品を自分の全力を以って鑑賞し考察したいという意欲。

考察をするからには、推敲を重ねてブラッシュアップしたい。文章として出力するからには、広く公開して誰かに読んでほしい。「星凪の地」という傑作を、その魅力をたくさんの人に知ってほしいという希望も手伝って、こうしてnoteを開設することにした。

今回は特に映像表現側に主眼を置いて自分なりの解釈を試みたい。音楽や歌詞の解釈には深く立ち入らないことにする。映像と音楽を同時に考察しようとすれば、時間も紙幅も足りなくなりそうだ。まずは映像側に集中したい。
ただし、筆者は題材となっている戦争や兵器については寡聞にして多くを知らない、ということは最初に断っておきたい。
以下では断定口調で話を進めるが、それは筆者がいまいち自信が持てない中、奮い立たせて書いているからであり、書かれていることが全て正しいとは限らない。という予防線も忘れず添えておく。

0. 作品の構造

「星凪の地」が非凡なのは、立体的な構造をした物語である点だ。
音楽側と映像側で、それぞれ独立した物語が仕上がっている。どちらも完成度が非常に高いという感想を、多くの人がまず抱くだろう。映像を完全にシャットアウトして耳だけで楽しむこともできるし、音楽をミュートして映像だけに集中して鑑賞することもできる(しないけど)。
両者は、ところどころリンクして共鳴しながらより複雑な物語を織りなしている。この作品の奥行きは、2つの完成した物語の交叉によって生み出されている。

後で詳しく言及するが、この映像作品は3つのレイヤーから出来ている。
ウサギたちが登場するトーキー映画の世界、それを鑑賞する2人の空軍士官学校生の世界、そしてその2人の物語を制作しているメタな現実世界。レイヤー間の相互作用も、この作品をより立体的に仕上げている。


1. 空軍士官学校のふたり

この作品の中心にいるのは空軍士官学校生と思しき2人の人物だ。以下では、ボンタさんに倣って、黒髪ショートを「」、茶髪ロングを「ランカ」と便宜的に呼称することにする。

『AIR WIN(空軍が勝つ)』という表題が提示され、行軍するウサギたちに爆弾を落とすところから、この作品は始まる。このプロパガンダ映画を見ている2人は退屈そうにしている。上映が終わって外に出ると空は快晴だ。戦争の気配はまだ感じられない。

ここから『星凪の地』のタイトルが表示されるシーンまでは、2人が飛行機に乗り込み空爆をおこなう。平和な描写で前後を挟まれた、やや異質に過激なシーン。空虚な目をした「僕」が、爆弾から逃げる人々の姿を想起して目を開くのが印象的だ。ここで歌われている〈ぼくら大人すぎて気づかなかったんだ 世界はこんなに輝いているよ〉という歌詞が大きな皮肉に聞こえて、心に刺さる。

どうやら2人は士官学校に所属し、寮の同室で暮らす仲らしい。
おや、と思ったのは、退屈な映画上映でも起きていた「ランカ」が、授業中眠そうにしている点だ。朝の目覚めも良くなさそうだ。憶測に過ぎないが、「ランカ」が不眠症に悩まされているように見えた。起床シーンの寸前に挿入された『AIR WIN』の爆撃。被害者側のウサギたちに感情移入し、眠れない日々を過ごしているのではないか。
後のシーンで、複葉機を大胆に操縦する「ランカ」だが、その行動とは裏腹に心に抱えているものがあるのかもしれない。前後するが、授業中の「僕」の言葉に〈あぁそうか〉と安心した表情を見せている。

「ランカ」の胸中を知ってか知らずか、後部座席の「僕」は振り返る「ランカ」の笑顔に頬を染める。その想いが如何ほどかは量りかねるが、この先の展開を考えると切ない。


2. 停滞するアニメーション制作

今更だが、「星凪の地」という作品は、以下の人たちの手によって産み出された。
  Vocal : 羽子田チカ × Niwa
  Illustration & Animation : 巡宙艦ボンタ
  Words & Music : 1 + 2 =
  Special Thanks:宮橋 (Whistle, Mandolin, Shaker)
3:04~のカットでは、音楽側を担当された3者の姿が映される(オニオオハシの宮橋さんは嘴の先だけの出演…)。映像世界のレイヤーはこの間奏部分から一段上がり、アニメーションを担当されたボンタさんに焦点が当てられる。

絵コンテを描いているボンタさんの手は対空砲が被弾したシーンで止まっており、芳しくない表情を浮かべている。吊り下げられた色の無い飛行機は、プロペラが回っているものの、動き出すことは無い。制作の停滞を思わせる描写だ。

そして、美談的側面だけが冒頭で描かれていた空軍ウサギたちに、対空砲火の照準が当てられる。孤独に机に向かうボンタさんを、戦火が取り囲んでいる様が印象的だ。戦争という題材を扱う以上、華々しい面だけではなく暗いカゲの部分にも向き合わなくてはいけない。しかし、創作の手は進まない。

そんなボンタさんの傍に立ち〈世界はこんなにも美しい〉と耳元で囁く「ランカ」。そして絵コンテから飛び出し〈ぼくの手を導〉く、「僕」。
なんと美しい描写だろう。創作という行為の美しさ。自分が産み出したものに背中を押され、気付きを得るという瞬間。「僕」と「ランカ」がレイヤーを超えて、作者に働きかける。一番好きなシーンだ

そして「僕」と「ランカ」の物語は、彩り鮮やかに急激に展開しはじめる。同時に、歌もクライマックスを迎える。


3. ボンタさんの結末

色鮮やかなサーチライト(=上空の敵機を捕捉するためのライト)に照らされた夜空。窓からは「ランカ」が帽子ごと手を振っているのが見える。その時、「ランカ」の飛行機には対空砲が被弾したのだろう、爆発の光が「僕」の目に飛び込む。寸前に差し込まれたフラッシュバックが、2人の別れを引き立たせている。

そうして「ランカ」の帽子は、絵コンテの中で地上まで落ちていく(余談だが、絵コンテには英訳された歌詞が書き込まれている)。机に向かうボンタさんの前には、星空の壁紙が広がっている。先ほどまで戦火に囲まれていたこととの対比を考えると、ボンタさんはここで〈星凪の地〉に辿りついたのではなかろうか

ただし、〈星凪の地〉が指す意味を説明する言葉を、自分はまだ見つけられていない。現時点では、漠然と「精神の平穏」「大切な人との安らぎ」のようなものと捉えている。この点については、引き続き考察を深めて精度を上げたい。
ちなみに、この星空の壁紙は0:50~のシーンにも登場していて、明滅する光に照らされた「僕」と「ランカ」が佇んでいる。このシーンで〈鳥籠の底から連れ出して行こうよ 約束の地まで〉と歌われていることは大きなヒントになると思う。


4. 「僕」と「ランカ」の結末

朽ちた飛行機に場面が変わる。夜の静けさの中、2匹のホタルが光を放ちながらじゃれ合うように翔ぶ。ホタルは明らかに「僕」と「ランカ」の分身であり、〈星凪の地〉に辿り着いた姿だろう。この飛行機は、タイトルロゴが表示された1:46~のシーンで2人と共に出てくる。

対空砲が被弾して悲劇的な別れを果たした2人が、どうやって〈星凪の地〉に辿り着くことができたのか。この作品の一番の謎であると同時に、この作品を解釈する上で大きな手がかりになりそうだ。この点についても引き続き考察を深めたい。
ちなみにNiwaさんによれば、このシーンは伊勢物語「行く蛍」をモチーフにしたそうだ。女と死別した男が、女の霊魂を運んでくれと蛍に託す、物悲しい話である。これも重要なヒントになると思う。

場面は切り替わり、ボンタさんと子どもが映画館でこの物語を見届ける。ボンタさんは手に持つ帽子を子どもに被せる。Niwaさん曰く継承のシーンとのことだが、自分も全く同じ印象を受けた。
ここで上映されている映像が継承するものは、戦時中のプロパガンダ映画『AIR WIN』とは真逆のものだろう。平和であることの尊さ、平和を次世代に繋げることの意義、そういった概念が帽子として子どもに託されている。

そうして〈星凪の地〉への行き方も、きっと継承されていくのだろう。

(了)


――――――――――――――――――

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
まだまだ未熟な考察ですが、今後も自分なりの解釈を育てていければと思っています。

以下、まだ解決できていない疑問。
 ・〈星凪の地〉とは、なにか。
 ・どうやって2人は〈星凪の地〉に辿り着いたのか。
 ・モデルとなった数々の兵器を選定した意図・理由(時代考証も必要になるかも)。出てきた飛行機たちが識別できれば、時間軸の整理にも役立つかもしれない。
 ・見つけ出せていないモチーフの数々(これは自分だけの力では無理かも)。

最後に、この傑作を作られた4人に最大級の感謝を。

最後まで読んでくれてありがとうございます! 「スキ」やSNSへのシェアなどしてくださると励みになります。 万が一、もしも有料サポートをいただけましたら、推しVtuberにスパチャを投げます。非効率なので非推奨。