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童謡を時代に即させたい。文:松真ユウ


スマホを軽々と使いこなしたり、化粧をして学校に通ったり、昔と比べて今は子供の成熟が早い時代だ。

スマホ・化粧といったことだけならば、「大人顔負け」だとか「大人びているね」などの感想を抱くだけだ。しかし、現代の子供たちを取り巻く「環境」は、彼らを興味の赴くままに情報へとアクセスさせ、結果として様々な才能を花開かせている。ネット環境や動画サイトでのコンテンツの充実が、いい意味でも悪い意味でも子供たちを成熟させるスピードの加速装置になっていることは論を俟たない。

そんなようなことをぼーっと考えていたら、ある日ふと疑問を持った。

なぜ「童謡」は一向に進化しないのか…?

ご存知の通り、童謡とは子供のための歌である。子供を取り巻く環境が変化しているのであれば、童謡の在り方が変化してもなんら不思議ではない。何度も言うように、子供の成熟が早い時代だ。成熟しようとする子供たちのニーズに童謡は応えていない。

童謡を進化させることは、もはや大人の責務と言っても過言ではないのである。

そんなワケで今回は、既存の童謡を勝手に進化させてみることにした。記念すべき第1回目のナンバーは「ぞうさん」(第2回があるのかどうかは神すら知らない)。まずはその歌詞を改めて紹介しようと思う。

「ぞうさん」

ぞうさん ぞうさん
おはながながいのね
そうよ かあさんもながいのよ

ぞうさん ぞうさん
だあれがすきなの
あのね かあさんがすきなのよ

やはり幼稚すぎる。これではただの可愛い歌止まり。眠っている子供の才能を呼び起こすためには、もっと大人っぽい要素をふんだんに盛り込んでいく必要がある。

①漢字にしてみる

象さん 象さん
お鼻が長いのね
そうよ 母さんも長いのよ

象さん 象さん
誰が好きなの
あのね 母さんが好きなのよ

単純な修正を加えただけなのに、子供っぽさは多少軽減された。しかし、口調が可愛すぎるせいか童謡特有の幼稚な雰囲気はなかなか消えない。


②硬めにしてみる

象よ 象よ
鼻が長いのか
そうだ 母も長いのだ

象よ 象よ
誰が好きなんだ
あのな 母が好きなのだ

そもそもこの歌が子供目線の歌なのか母親目線の歌なのか、はたまたその親子を見つめる第三者目線の歌なのかよく分からなくなった件はさて置き、童謡感は一気に消えた。ただ、2番の「あのな」は品がなさすぎる。子供の才能を呼び起こそうとして、子供に悪影響を与えてしまっては元も子もないので却下。

③知的にしてみる

ゾウ目ゾウ科 ゾウ目ゾウ科
鼻と上唇が長いのだね
そうだよ 母も鼻と上唇が長いのだよ

ゾウ目ゾウ科 ゾウ目ゾウ科
誰が好きなのだ
あのね 母が好きなのだよ

スゴくためになる歌が出来た。象がゾウ目ゾウ科であることはもちろん、あの長い鼻には実は上唇が引っ付いているという意外な事実を学ぶことができる。ただ、全体的に若干くどいのが難点。情報量の多さが際立って、歌である必要性が失われている気がしなくもないので却下。

④ラブソングにしてみる

象さん 象さん
その長いお鼻が愛しいよ
そうなんだね 母親譲りなんだね

象さん 象さん
君は一体誰が好きなの?
あのね 母親が好きとかそういうのはもういい

子供というのは恋を知り、愛を知って、大人になるものだ。そんな観点から進化させてみた。……いまいちラブソング感が出ていないものの、改善を重ねればなんとなく良い歌に生まれ変わりそうな気配はある。とりあえず「象さん」という呼び方がそっけないので、象に可愛らしい名前を付けてみよう。

⑤愛の方向性を決め、濃度を上げてみる

マナミ マナミ
その長いお鼻が愛しいよ
そうなんだね 母親譲りなんだね

マナミ マナミ
君は一体誰が好きなの?
あのね 母親が好きとかそういうのはもういい

急激にラブソング感が増した。ただ、このラブストーリーを展開していくうえでお母さんの存在が邪魔すぎる。思い切ってお母さんのくだりをごっそり削り取って、代わりにラブソングに欠かせない片思いの切なさを盛り込んでみる。

⑥片思い要素と切なさを足してみる

マナミ マナミ
その長いお鼻が愛しいよ
そうさ 僕はいつでも君を想っている

マナミ マナミ
君は一体誰が好きなの?
ごめん やっぱり言わなくていいや

狙い通り切なさが爆発した。叶わないと知りながらも諦め切れないマナミへの気持ちが、この短い歌詞からも十分に伝わってくる。この勢いで、マナミにフラれるまでのストーリーを「ぞうさん」の原型を無視して10番まで付け足してみる。

それでは聞いて下さい。
「愛象への愛憎」

マナミ マナミ
その長いお鼻が愛しいよ
そうさ 僕はいつも君を想っている

マナミ マナミ
君は一体誰が好きなの?
ごめん やっぱり言わなくていいや

マナミ マナミ
本当は全部分かっている
でもね 君の諦め方が分からないんだ

マナミ マナミ
そんなにユウジが好きなのかい?
いつか 素直に喜べる日が来ればいいな

マナミ マナミ
愛は美しいと書いてマナミ
僕は 君から大切なことを教わった

マナミ マナミ
今まで本当にありがとう
明日 僕はこの動物園を出るよ

マナミ マナミ
どうして泣いているんだい?
やめて 決意が揺らいでしまうから

マナミ マナミ
僕らは今日でお別れだ
大丈夫 君にはユウジがついている

マナミ マナミ
君との出会いは忘れない
だって 君は僕の愛そのものだから

マナミ マナミ
僕の鼻と同じくらい
末長く 幸せな日々を過ごしてね


素敵なラブソングが完成した。タイトルも秀逸だ。我ながら子供の感受性をほどよく刺激する絶妙な仕上がりになったと思う。ちなみに、ユウジは主人公の古くからの親友だ。ユウジは主人公の気持ちを知りながら、悩みに悩んでマナミと一緒になる道を選択した。その数年後、主人公は隣町の動物園で鼻の短いサユリと出会い…(以下、省略)。

そんなワケで、今回は童謡「ぞうさん」を色んなパターンで大人っぽく進化させてみた。改めて歌詞を読み返してみて、一つ気付いたことがある。

メロディーのことすっかり忘れてた。

このままじゃ字余りが多すぎて歌いづらいから、もし次回があるとしたら、その時はもっとメロディーのことを意識した進化を模索していきたい。挑戦は始まったばかりだ。


文:松真ユウ
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