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皇帝様は絵師を褒めて伸ばしたい#003「カトリーヌ・ド・本郷はサメが好き」

美しい絵(主に美少女の)をこよなく愛するカイザー烈と、ひょんなことから彼のおかかえの絵師となったスィンゴミカミン。カイザーは絵を発注し、絵を愛で、そして褒める――。全ては、スィンゴを自分好みの神絵師にするために……!

☆プロローグ&第1作目を読む☆

☆第2作目を読む☆


【第3作 ~Fカップのカトリーヌ~】

「絵を描いたほうがいいよ」って言うと、惰眠を貪る。

「絵を描こう」って言うと、ようやく重い腰を上げる。

「絵を描け」って言うと、絵を描くふりを始める。

そして、腹が立って無言でファラリスの雄牛(*)を用意すると、「ごめんなさい」と謝って筆を走らせる。それがスィンゴ。

(*)古代ギリシアで愛用されていたといわれる青銅製の雄牛の像。像の中は人がひとり入れるほどの空洞があり、像の腹を火で炙るとまるで本物の牛が鳴いているような音が鳴り響く。漫画『嘘喰い』に登場したことで、“鋼鉄の処女”と並ぶほどのメジャーな彫像物となった。

彼との共同生活が続いたおかげで以心伝心とまでは言わないが、まるで十年来の友人のように意思疎通ができるようになっていた。今では煮えたぎったお湯を飲ませると、熱がっていることをおぼろげに感じることができる。信頼関係を築くとは、まさにこのことだろう。

なぜ、高貴で高潔で高尚な私が干からびたウミウシのようなオーラを漂わせているスィンゴと信頼関係を築けるのか、多くの人は疑問に思うだろう。だが、その理由は実に簡単で、私がスィンゴ・ミカミンという人物をリスペクトしているからだ。世界中の誰よりもスィンゴの絵の才能を認めている。故にどんな拷問を掛けても利き腕だけは傷つけないように心掛けている。

今回、そんな才能の伊勢丹デパートのようなスィンゴに依頼した絵画はこれだ。

「パントマイムの練習をしている全身タイツのFカップ女子」

今までは主に“カワイイ”女性を描いてもらっていたが、今回は“セクシー”路線だ。かの孔子も「乳は正義で正義は乳」という言葉を残したとか残していないとか伝えられているように、この世の男性は乳を欲している。もちろん、私も例外ではなく、先日に巨乳系の作品をFANZAと名乗る商人から購入したばかりだ。

いったい、乳×スィンゴでどんな化学反応が起きるのか、楽しみで仕方がない。さあ、見せてもらおう、スィンゴの乳才(乳を描く才能)を。


そして、待つこと081分。ついに作品は完成した。

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欲情した、私は欲情した。ピチピチの全身タイツによって強調されたボディラインに、私の欲望は我慢できなかった。作品を見た瞬間、トイレに駆け込んだぐらいだ。

また、サメを持つパントマイムをしていることから、彼女(…いや、便宜上、カトリーヌ・ド・本郷としよう)は極度のサメ好きということも理解できる。そう、ドはドのつくサメ好きなのだ。

知っての通り、サメは誰からも愛されている海洋生物で(理由:カッコいいから)、サメを題材にした映画は数知れず。カッコいいサメとセクシーさがハイブリッドしたら、辛抱できる男性はこの世に存在しないだろう。

さらにドをより魅力的にしているのが、「サメ持っているように見えます?」というセリフだ。パントマイムは普通、言葉を発さずに身体の動きで表現するのが一般的で、「今、自分は何のパントマイムをしているか」の説明をするのはご法度中のご法度だ。

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にもかかわらず、ドは問い掛けている。これは完全に失敗のパントマイムだ。だが、あえて失敗を見せるという行為は、自分の弱い部分を見せて同情を集めるという心理学テクニックのひとつで「アンダードッグ効果」という。

格闘技の試合で身体の小さな選手を応援したくなる気持ち、ラグビーの試合で109-0で大敗したチームを応援したくなる気持ち、ボコボコにされるクマを応援したくなる気持ち、これこそアンダードック効果だ。

この作品にはそんなアンダードッグ効果が巧みに施されており、私は失敗しているドを見て「助けてあげたい」と思ってしまった。そう、ドはパントマイムには失敗しているが、私の心を掌握するのには成功したのだ。

もはやミロのビーナスをも超えたといっても過言ではないが、どうしても理解できないことがある。それは「打倒、トリンドル玲奈!!」と書かれた紙だ。

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パントマイムとトリンドル玲奈、全く共通点が見えない。

もしかしたら私が知らないだけで、トリンドル玲奈氏はパントマイマー界では神マイマーと崇められているのかとも思ったが、yahoo知恵袋で訊いてもそのような事実は確認できなかった。

全く判らない。全く判らない。だが、判らないからこそ気になってしまうもの。これこそスィンゴの仕掛けた罠だと気付いたときは既に手遅れだった。私はミステリアスなドに夢中になっていた。

もしかすると、スィンゴは絵画を描く才能だけでなく、会うことなく相手を恋に落とすマッチングアプリのサクラの才能もあるのかもしれない。


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「パントマイムの練習をしている全身タイツのFカップ女子」
スィンゴ・ミカミン

所蔵:カイザー烈


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