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「選ばれなかった3年生」辻家の人々・第28話/文:辻ヤスシ

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辻家の人々 第28話
「選ばれなかった3年生」


夏の大会まで1カ月半を切ると、チームの練習は総仕上げとしていつも以上に激しさを増す。バッティングや守備の練習はもちろんのこと、牽制などのサインプレーといった細部に至るまで――やり残しのないように詰めていくのだ。

僕の高校は公立校で、野球部への入部自体は希望者の全てが可能なため、各学年で20人以上、全学年を合わせると70人以上の大所帯となる。普段の練習はほぼ全員が同じメニューをこなすため、はっきりいって効率はよくはない。

夏の大会までの時間が残りわずかとなった今、練習の効率化を図るためにも、中心となる主力選手を30人弱まで絞る。夏の地方大会のメンバー20人(甲子園は18人)はよほどのことがない限り、この30人弱の中から選ばれるため、漏れた選手たちは夏の大会の構想から外れるということとなり、中心メンバーの練習のサポートに回る。

それでも、1・2年生はこの夏の大会が終わった後、『新チームになった時こそは俺が選ばれてみせる!』とモチベーションを保つことはできる。だが、3年生に次は…ない。選ばれなかった3年生は最後の夏の大会を前にして事実上の引退となる。

この日はその30人弱のメンバーが発表される日だった。

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