見出し画像

その自信だけ欲しい

自信があるのはいいことだ。
自己否定的より余程良い。
自信があることによって、持っている以上の力を発揮することすらあるだろう。
自信が欲しい。

まだ今流行りのウイルスが出てくる前、チェーン店のカフェに行ってコーヒーを飲んでいた。
隣には、20代前半くらいの女性。清潔感があって綺麗そうなお姉さんだが、キャラもののアクキーを付けていたので、オタクなのかな、と思った。場所が池袋だったのも、余計にそう思わせた。
そして、勝手にオタクと決め込んで、最近のオタクは綺麗でオシャレですな〜などと思っていた。
その向こう、お姉さんの隣には、50代後半くらいの、失礼だが冴えない感じのおじさんが座っていた。印象で言うなら、競馬場で缶ビール飲んで馬券投げてそうなおじさんだ。格好からも仕事の合間にも見えなくて、今日はお休みなのかな、といった感じだった。

私はイヤホンをしていたが、小さい音で音楽を聴きながら、特に用も無くスマホを操作していたら、おじさんが隣のお姉さんに話しかけているようだった。
意外だ。知り合いだったのか。
ただ、会話はきちんと聞き取れないが、お姉さんが若干遠慮がちに話しているような雰囲気が伝わってきた。
おかしいな、と思い、私はイヤホンはそのままで音楽を止めた。

盗み聞きはよくないが、少し会話を聞いていて分かった。
ナンパである。
おじさんは、お姉さんにこのあとの予定などを聞き、一緒に行っていいか聞いていた。
無謀である。
しかも、この後の会話が驚きのものだった。
「いや、映画、友だちと行く約束してるので……」と断るお姉さんに「じゃあ、友だちと3人で行こうよ」と提案するおじさん。
「ちなみにどんな映画見るの?」とおじさんが聞くと「あ、アニメのです」と親切に教えてあげるお姉さん。
そこでおじさんが言ったのは「アニメなんか最悪だよね」

………えっ。

その後、調子が付いたのか、いかにアニメがクソかを語り出したおじさん。そして、昔の洋画上げ。
初めにお姉さんの印象をお伝えしたが、20代前半のオタクと思われるお姉さんである。
もちろんアニメが好きだから観に行くんだろうし、年齢的に昔の洋画はまだ見たことがないだろう。
悦に入って話し続けるおじさんに、終始困った様子で相槌を打つお姉さん。
いや、ええ人やな、お姉さん。もう無視してやったらいいのに。

あんまりにも強引なようなら、止めに入るか店員さんを呼んでくるかしよう、と思って様子を伺い続けてたのだが、お姉さんがいい人過ぎて話を延々聞いているので、なかなかどちらの手段も取れずにいた。

そのうちおじさんは、自分の仕事の話をし出した。
聞いたところ、小説を書いて出版社に送っているらしい。パソコンは分からないから、手書きだそうだ。それが仕事だそうだ。


………それは小説家志望の無職では?

「すごいですね」と笑顔で相槌を打ってくれるお姉さんに更に調子に乗るおじさん。
お姉さん、もういいよ。全然すごくないよ、そのおじさん。

私が心の中でのツッコミし続けていたら、お姉さんは遠慮がちに「そろそろ約束の時間なので……お話頂いてありがとうございました」と言って席を立った。
お金を払ってカフェにきて、変な無職のおじさんの話を聞かされてお礼を言えるお姉さんに、今後幸せしかないように祈るしなかった。

そして、残されたおじさんは、特に追いかけることもせず。
お姉さんが去ったあとは、ずっと私を見ていた。

……なんでなん?

もし、さっきの女性よりは劣るがコイツならいけるか?とか考えてるなら、安心して欲しい。
お前には誰もいけない。

もし、私がおじさんの立場だったなら、自分を顧みてナンパするなんて絶対出来なかっただろう。
それが出来る、その謎の自信。しかも、不相応な女性にまで出来る自信。
その自信だけが欲しい。そう思った昼下がりだった。
なお、おじさんスペックは微塵も要らない。


あと、カフェとかでナンパするのは迷惑なので、止めた方がいいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?