【コント(33)】『遠回り(30)』
(暗闇)
「暗い……くそっ、ここはどこだ? 潜水艦で深海にいたと思ったけれど、下は岩場だし、なんか響くな。たしか巨大タコに神沢さんが捕まって、さらに潜水艦も捕まって振り回されたんだった。なんとか助かったみたいだけれど、ここはどこだ? 洞窟のような……
こんどこそ一人かもな……さすがに闇って怖いな。声を出すのも怖い。
神沢の馬鹿野郎は、たぶん死んだかな。タコは予想外だったんだろうな……。
でも、あんな大きなタコっているだろうか? やっぱりあれも仕掛けかな。今なら映像技術でなんともなるんだろうな……
だとしたらほんと、よくやるよ……
怖い…………
少しでも動けないかな。どっちに行けばいいんだ? 本当に洞窟かどうかもわからないし。洞窟ってけっこう危険なんじゃないかな……
いや。またこのパターンか。
てめえ、いいかげんにしろよ。やりすぎだろう! さっさと出てきやがれ! くそぉ、こんな目にあわせやがって。ぶっ殺して……
とにかく出口だ。出口に行きたい。
あれ? あそこに光が見える。火っぽいな。松明? ああ、わずかでも光があると見える」
(そちらに近寄る。小さく火を灯しているものを持ち上げる)
「これって、ランタン? つまみがあるぞ」
(光が灯ると背中に、神沢がいる)
「ん?(振り向く)うわあ!
何やってんだ、あんた!」
「(泣きながら)いやあ、里中さんがいて良かったあ。怖かったあ」
「あれ? いつになく弱気ですね。じゃあこれは本当のアクシデント?」
「闇がここまで怖いなんて思ってなかったあ」
「その言い方だとなんとなく、この状況を作ったのは神沢さんで、ただそれが怖かったのが想定外だった、というようなニュアンスを感じるんですけれど、気のせいでしょうかね。ってその格好。手には剣を持って。剣士かなんかですかね。なんとなくですけれど、次にやるのはパラパパッパパー、ですかね」
「里中さんは、魔法使いと僧侶、どっちがいいですか?」
「RPGとかの、ファンタジーゲームの世界ですか? ここはダンジョン?」
(グルルルル、という鳴き声が聞こえる)
「……しかもモンスターが出現しそうな音が聞こえましたけれど」
「さあ、早く。職業選択を」
「……魔法使いで」
「ああ、今回はやけに素直ですな。はい、ではこれを身につけて」
「これ、とんがり帽子? なんかまぬけだなあ。はぁ、で、これがローブと杖ね。はい。バルス!」
「あ、それはレベル10魔法なので、サトリッパにはまだ使えません」
「察するに、サトリッパ、は私の魔法使いとしての名前なんでしょうね。べつに答えてくれなくていいです。じゃあどんな魔法が使えるっていうんですか」
「……」
「なんで黙るんですか」
「いや、答えなくていいって」
「そっちは答えるんですよ。魔法がわからないと、魔法使いになった意味がないでしょう」
「バルサンはレベル20です」
「バルサンはバルスの上なんですか。あんなもん買ってきたらすぐ使えるでしょう。……じゃなくて、私が今使える魔法ですよ。私は今レベルいくつなんですか」
「レベル8にまでなりました」
「思ったより高かったですね」
「タコと伽倻子を倒しましたから」
「タコはいつのまにか私が退治したんですね。あと、伽倻子も退治していたんですね。で、レベル8はどんな魔法が使えるんですか」
「マギーとか」
「それはどんな魔法」
「縦縞のハンカチを横縞にするんですよ」
「マギーって、マギー司郎じゃないか! そういうマジックじゃないでしょう。ファンタジーの世界で使うマジックっていうのは」
「じゃあ、ポンプとか」
「それは何」
「金魚を飲み込んで、また出すんです」
「そういう昭和のネタを。それって人間ポンプでしょう」
「あとは、クシャーとか」
「いちおう聞いておきます。悪い予感しかしないけれど」
「顔がくしゃっとなるっていう」
「くしゃおじさん。ああ、もうろくなのがないですねえ。昭和の芸人のネタばっかりじゃないですか。どうせあとはエスパーとかいって、カバンの中に隠れるとかいう魔法があるんでしょう」
「あたった! あなたは真の魔法使いだ!」
「何があたっただ。だれだって予想できる……ああ、でもバカを言っていたら、少しは気持ちがなごんだな。さあ、さっさと帰りましょう」
(グルルルル・・我の眠りを覚ますものは誰だ、という声が響く)
「うわ、やばい。なんかが目覚めた」
「うわわわっ、なんか火を吹きました。ああ、それで見えました。あれは、ストライプドラゴンです」
「ストライプドラゴン?」
「まあ、ラスボスですな」
「はあ? ラスボス? そんなんいきなり出てくるんですか? 僕らのレベルではどうしようもないでしょ」
(神沢、剣を持ち上げて振り回すが、すぐに折れてしまう)
「うわー、あんた何やってんだ。ちょっと! リアルに熱い。これ危ないって。ああー、もうー。マギー!」
(縦縞のドラゴンが横に倒れ、戦闘に勝利し、レベルアップの音がする)
〈続く〉
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