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2021年映画感想

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2021年6月の記事一覧

映画『茜色に焼かれる』感想 このクソみたいな世界の片隅に

 観ていて、かなりストレス溜まる作品ですが、尾野真千子の暴発は絶品。映画『茜色に焼かれる』感想です。  スーパーの花屋のバイトと、ピンサロで働くシングルマザーの田中良子(尾野真千子)。彼女の夫である田中陽一(オダギリジョー)は、7年前に元官僚の老人によるアクセルの踏み間違いで理不尽に命を奪われていた。賠償金も拒否して、誰も恨もうとせずに生きる母親の姿は、息子の田中純平(和田庵)にとって誇りであると同時に、不可解なものでもあった。コロナ禍により破綻したカフェ経営を再開すべく、

映画『アメリカン・ユートピア』感想 音楽で提示する人間の進化と理想郷

 音楽ファンのみならず、演劇などの舞台芸術が好きな方は、何かしらの衝撃を受ける作品。映画『アメリカン・ユートピア』感想です。  2018年に発表されたデヴィッド・バーンのアルバム『アメリカン・ユートピア』。そのワールドツアーを経た後、翌年に行われたブロードウェイでの公演が大きな評価を得ていた。マーチングバンド形式で、バーン自身と11人のミュージシャンが、フォーメーションのダンスを繰り広げつつ、一糸乱れぬ生演奏で楽曲を奏でるライブは、観る者を圧倒的な感動に導いていく。  この

映画『ファーザー』感想 人は樹、想い出は葉

 誰もが迎える可能性を先行体験するVR作品、映画『ファーザー』感想です。  劇作家フロリアン・ゼレールによる舞台演劇の戯曲を原作として、フロリアン・ゼレール本人が監督・脚本を務めた作品。フロリアン・ゼレールにとっては初監督作品になりますが、各映画賞を総ナメして絶賛を浴び、ついにはアカデミー脚色賞、主演のアンソニー・ホプキンスは、『羊たちの沈黙』でのレクター博士役に続いて2度目の主演男優賞を受賞するという快挙を成し遂げています。  本作の最大の特徴は、認知症患者本人の視点を