5月23日(土) ことばとチーズケーキとパステル

土地レベルで巨大なたこ焼きをピザ状に切って食べる夢を見ていたかもしれない。
土曜日特有の早い目覚め。鉄分のグミを噛み、詩集を二ページ読み、うつぶせになってうとうとしていると心臓の鼓動が響いてきた。

今日の自分は休みだけれどこの心臓は自分の誕生以来一秒たりとも休んだことがないと気付き呆然とする。少しでも安らげるよう一時間ほど余分にうとうとする。

ズムスタを観ながらカレー。甘酒がなかったため蜂蜜をかけて食べる。
まったりとした気持ちでにゃるらさんのnoteを読みシャキッとする。

昨日届いた書肆侃侃房『文学ムック ことばと vol.1』を読むことにして封筒を開けた。

保坂和志&千葉雅也が目当てで文脈を知らずに買ったが、佐々木敦さんが創刊した新しい文芸雑誌とのことだ。ならば最初から最後まで順に読んでみようという気になる。

表紙裏に佐々木敦さんからのメッセージがあり、ページをめくるといきなり凄い字面というか絵面の詩があった。福田尚代さん。
もやもやした暗闇から飛躍し続けるイメージに乗りながら紙に還っていくような凄い体験だった。創刊号の最初のページでこの詩を読ませることに強い意思を感じた。

目次は見ずに次のページへ。いきなり千葉雅也!!!
今から千葉雅也の新作を読むぞと一呼吸置いて読む。『マジックミラー』。

いやあ良かった。凄く良かった。
滑らかに読めるのだけれど月並みな表現が一つもないのが面白い。
例えば「ユウくん」と20年ぶりに再会して乾杯する場面では書き方そのものの良さに喜んでしまった。

面影はあるな、と思った。
確かにあのユウくんの「あの」感じが生き生きと存在している。でも、その「あの」が、いまや積もり積もった贅肉に沈んでいる。僕は彼の全身を、石の塊からその「あの」を慎重に削り出すようにして眺めていた。
『ことばと vol.1』千葉雅也『マジックミラー』 p.11

彼の第一作「デッドライン」に続いて暗闇のハッテン場の描写がなんとも良くてずっと潜っていたくなる。露骨なのにエモいのが不思議だ。
今作では記憶の中の色んなハッテン場が時間の概念を無くしたように浮かんでは消え繋がり合う独特の時空間で語りが進められており、濃いドライブ感があって良かった。

ゲイの「僕」が自分の身体に向け続ける自意識のありようを女である自分の意識で読んでいく最中の共鳴とズレも面白い。
やべー。千葉雅也さんこれからもめちゃくちゃ小説を書いて欲しい。

続いて創刊記念の座談会ページを読んだ。柴田聡子さん、又吉直樹さんの「言葉」に纏わるルーツなどを佐々木敦さんが尋ねていく形。物凄く長くて読み応えがあった。
柴田さんが作詞の方法を語る時だけ急に擬音溢れる抽象的な説明になるのが良かった。

又吉さんは15年ほど漫才やコントを書き続けてきたのに小説を書いた途端「新人」として大きく取り上げられたのはドーピングのようだと思っていたそうだ。確かに漫才やコントを書いている人の文章は光っていることが多いけれどそれは漫才やコントを書くこと自体が「書く」ことの積み重ねだから当然の磨かれ方なのだと今更気付かされた。
駆け出しの芸人のセリフを書いた際に編集者が爆笑した部分は削った、など作品の書き方の話も面白く、『火花』で止まっていたけれど『劇場』『人間』も読んでみたくなった。

一旦雑誌を置いて日記を書き、昼飯はピザトーストで軽く済ませて買い物へ。
母の作品を勝手に漁り、マウンテンパーカーと合う色合いの布マスクを拝借して家を出た。洒落た気分だ。
駅前に出てみると大行列があり驚く。テイクアウト日和だった。

まず100均でパステル画の道具を探し回った。どうしても今日パステル画をやってみたい。
画材コーナーに行くと「蛍光色+補助色」のセットだけ売られており「基本色」は売り切れのようだった。とりあえずあるもので試したいから蛍光色の絵を描けば良い。

画用紙、マスキングテープ、茶こし、コットン、絵筆、消しゴム、練り消しも購入。久々の100均回遊で目が回りそうだった。
会計では今更始めたPayPayを初めて使ってみた。あっさりと支払えて心底快適だった。こいつとsuicaがあればもう現金に触れる必要は殆どない。

他にもいくつか店に寄った後、前からやりたかったコンビニイタリアンプリンの食べ比べを行うべく大手三社を巡った。大変疲れた。義務を伴う歩行は今やりたいことではないと自覚しながら歩みを止めない自分がいた。
イタリアンプリンは無事全社分見つかり全部PayPayで買い取る。

週末恒例の製菓も義務として果たしたかったためスーパーに寄るとバターなどがあり購入。
チーズケーキを作って明日まで冷やし、今日のおやつはイタリアンプリン3種の食べ比べをする、余った時間でパステルを試して「ことばと」の続きを読む、という過剰なスケジュールを頭の中で組み立てながら帰宅。

手洗いうがいマスクの洗濯をし、以前も一度作った「生かし屋」さんのレシピでチーズケーキをやっていく。
前回は美味しかったけれど表面を焦がしたのがショックで写真も撮り損ねていたためリベンジ戦だ。

まずは下に敷くサクサクのクランブルを焼いて型に敷き詰め、チーズケーキ生地を混ぜていく。交響アクティブNEETsのオーケストラ演奏を爆音で流しながらとにかくひたすら一生懸命あらゆるものを混ぜた。

ケーキをオーブンに入れしばしの別れ。その間イタリアンプリンの試食会を開催する。3種のプリンを少しずつ器に盛り食べ比べる。
まずはファミマの「ねっとりイタリアンプリン」。少し柔らかなプリンにカラメルの苦味が効いて美味しい!
続いてローソンの「ミチプー」。ファミマより硬くて甘めだ。最後はセブンイレブンの「イタリアンプリン」、こちらはそんなに好みではなかったがバリエーションの中にあるのは良い。

結果ファミマの「ねっとりイタリアンプリン」が異様に美味しかった。何故こんなYoutube企画のようなことを何も撮らずにやったのだろう・・・。
ただ、ケーキに敷ききれず余ったクランブルを振りかけて食べると3種とも非常に美味だった。クランブルの優勝。

パステル画のセッティングを終えてイメージを膨らませながら描きあぐねているうちにチーズケーキが焼き上がった。初手でアルミホイルを被せる作戦で見事な焼きぶりに仕上がった。しばらく放置で冷ますことにしてパステルへ戻る。

写真アルバムを捲って描きたい風景を探しつつ、買ってきた「蛍光色・補助色」パステルの色をじっと見ていると夕暮れの空を描きたいという気分になった。フィルムカメラで撮った何気ない夕暮れの空の写真を立て、緊張しながら画用紙に向かう。

紫寄りの微妙な青のパステルを取り出し、茶こしで別紙に削ってみると想像以上に柔らかくほろほろと削れた。力仕事でないことに安心する。
粉をコットンに付けいざ画用紙にこすり付ける。水色が薄ーく広がっていく。想像以上に薄付きだった。これがパステル!

思い切って画用紙に直接粉を削り出しバーっと広げていくとそれだけでもう空だった。描いているという意識がまるでないまま不随意な模様が生み出されて空になっていくのが魔法のようで、開始10秒でこの遊びを好きになってしまった。楽しくて仕方がない。

薄付きのコットンだけでは物足りなくなり、筆、指、スポンジ、練り消し、消しゴム、あらゆる器具を使って空のディテールを詰めていく。全くやったことがないのにどの器具を使えば良いか見当が付いてくるのが不思議だ。
とにかく粉を伸ばして重ねて消してを繰り返せばそれらしくなる。自分のコントロールに依存しない描き方だから絵の経験などなくても行ける気がした。

ただいつまで経っても色が薄い。それもそのはず、手元の100均パステルはあくまで「蛍光色・補助色」のみであり「基本色」がない。赤も黒もないのだ。この縛りでどこまで夕暮れを表せるか。

夕飯は再放送のコナンを観ながら鍋。
窓の向こうの空を見ると、さっきまで一生懸命描こうとしていた夕暮れの色合いや雲の風合いがリアルに存在しており感激してしまった。一体誰が描いたんだ、こんなに作画の良い巨大な空を。
カメラを持って外に出るといつもとは違った感触で空を切り取れた。たった一時間ほどパステルを触ってみただけでこうも目が変わる。面白かった。

部屋に戻り数十分ぶりに絵を見ると薄付きながら結構良いように見え、これ以上手を加えるのが怖くなった。絵は不可逆で際限がないヤバイものなのだと気付く。
それでも前へ進んでいく。粉をつけては指やスポンジでぼかし、遠目でバランスを見ながら塗り重ねたり消したりしていく感覚はメイクに近かった。本当にメイクの粉を使ってみるのも面白そうだ。

まだまだ未完な気がしたがどんどん分からなくなるため区切りをつけ、周囲をマスキングしていたテープを剥がしてみるとかなり"絵"だった。
印象派にも程があるぼやけぶりだがこれが私の空だと胸を張って愛せる空にはなった。

本格的っぽい絵が描ける割に水を使わないから何も片付けずに寝てしまえるパステル画、気に入った。もっと自由に描く技法や道具を揃えたらライフワークになるかもしれない。

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