5月16日(土) キバ

目覚め早し。オーケストラを観る。
カレーに甘酒を入れて朝食。家族の一人が発熱しているとかで逆に隔離される。

朝食後、ベッドに寝転がり阿久津隆さんの日記をいくらか読んでいくうちに寝ていた。
目覚めると10時半を過ぎていた。無性にアイスコーヒーが飲みたくて作るも牛乳を入れ過ぎて薄くなってしまった。

薄いコーヒーを無感情に飲みながら、ちまちま再読している保坂和志「言葉の外へ」を読む。小島信夫「うるわしき日々」について考える章が凄かった。
小島信夫はかなり異端な小説家だったのだけれど、彼の作品がきちんと読まれず型通りの評論に回収されることへの怒りが、保坂さんをこれだけ精緻で真剣な読みに駆り立てたのだろうと伝わってきた。痺れた。

昼食はスパムむすびを3個。多過ぎた。
食べながら、このぼんやりとした土曜日は、遥か未来で戦争や疫病あるいは貧困により最悪な環境を生きる私が、この家で暮らしていた任意の一日に戻りたいと願った結果ランダムに選ばれた一日なのではないかなどと想像し、目の前にあるスパムむすびやつまらないテレビや雨降る外界の全てが一気に愛おしくなった。

午後は「劇場版 仮面ライダーキバ 魔界城の王 ディレクターズカット版」を鑑賞。WOWOWのライダー映画一挙放送の録画が大分溜まっている。
キバは瀬戸康史演じる紅渡と天才バイオリニストの父・紅音也の二つの時代を並行して描くダークファンタジー調のメロドラマで、思い入れが一番強い仮面ライダーだけれど観るのは放送時の2008年ぶりだった。
それでも映像を観ると現行ライダーであるかのようにキャラ達の癖や独特の空気感に馴染めるから不思議だ。先日観た「アギト」もそうだったけれど、テレビシリーズを忘れた頃に単体で観る劇場版の楽しさにハマりそうだ。

それで無茶苦茶な所も多いが良い映画だった。キバの主題である「継承」が様々なバリエーションで奏でられて一つの音楽を形成しているかのようだった。それは血統であり、システムであり、音色であり、父から息子へ、母から娘へ、22年の時を経て受け継がれるものだった。

当時中学生の自分はキバに熱狂していたけれど、物語展開の面白さに取り憑かれるばかりで主題は殆ど見えていなかったのではないかと思ってしまう。
今観直したら昔とは全く違う受け取り方で楽しめそうだ。そうしたら「キバ」は過去の自分から未来の自分へ受け継いでいく、私にとってまさにキバ的な作品になるのかもしれない。
こんな風に自分の時間を外部メディアに預けておいて後から開封するというのも作品鑑賞の豊かさの一つだろう。特撮は一年単位で人生に絡み付くからそれにうってつけだ。

それにしても紅音也だった。中学生の自分と変わらない気持ちであの男に惚れ直す。そもそも今日キバを観たのはここ数日の自分の中でのオーケストラブームで紅音也のバイオリンを聴きたくなったからだった。
やはり紅音也の全ての振る舞いがセクシーでキマっていた。バイオリンで人々を心酔させる姿も、血まみれでイクサに変身する姿も、大食い中のギャル曽根をナンパする謎のシーンですらカッコよかった。

夜は「コナン」を観ながら夕飯。コナンの情状酌量により殺人未遂が隠蔽されて良い話風に終わった。米花町は狂っている。
食後に空を見ると、今まで見たことがないようなレベルの速さで雲が流れていた。

なんだかキバを思い出すと胸がグッと切なくなる。
寝て起きて放送される明日の仮面ライダーは「キバ」ではなく「ゼロワン」の総集編なのだった。それはそれで楽しみだった。

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