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【今日を生き抜ければいい】【一瞬のあたたかな記憶が、死を選ぶことを先延ばしにしてくれるから】   ㅤ

【今日を生き抜ければいい】

【一瞬のあたたかな記憶が、死を選ぶことを先延ばしにしてくれるから】
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その日はじめて昼スナに来てくれた独身の彼女は、いま「養育里親」になる研修を受けている、と教えてくれた。
養子が欲しいわけではない。
家庭で里子を育てている里親のレスパイトなどで週末だけ、数日だけ、里子を預かる役割だ。
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どんなに大切にお世話をしても、多くの子どもは実親のところに戻って二度と会うことはない。
虐待が行われていることを知っていても、血縁関係が重視される今の制度では、親元に帰されてしまうこともある。
「そんな話を聞くと、とてつもなく報われないことをしようとしている気もする」と小さく微笑んだ。
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彼女自身も、家にも学校にもどこにも居場所を感じることができない、しんどい子ども時代だったという。
  
中学2年生のときのクラスには、一日の終わりに日記を書く時間があり、そこで自分の感情を吐き出すことが唯一の自己表現だった。放課後に、誰もいなくなった教室で、1時間、2時間と書いては消し、消しては書いた。
書き終え、職員室に届けると、先生は黙って受け取ってくれた。きっと「気にかかる生徒」だったろう。
年配の女性で、彼女は先生の家に家出したいと考えたこともあった。この人がお母さんだったらいいなと思ったりもした。
でも、そんなこと口が裂けても言えない。何かをしてほしいわけではなかった。ただ受け取ってくれることが救いだった。
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ある日、いつものように日記を渡したときに、先生が名前を呼んで「大丈夫か」と声をかけてくれた。
その言葉を聞いたとたんに、涙があふれて止まらなくなった。すると先生はギュッと彼女を抱きしめてくれた。
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しかし、これまで誰からもハグをされたことがなかった彼女は戸惑い、フリーズしてしまった。
次の瞬間聞こえたのは「甘えてはいけない」という声。
「私はひとりで生きていかなければならないのだから、先生に甘えてはいけない、依存してはならない」
彼女は先生を思い切り突き飛ばし、職員室を飛びだしていった。
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次の日、先生は何も言わず、彼女も何も言わず、月日は流れて、彼女は遠くの高校へと進学した。
先生には以来、二度と会っていない。
   
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その日から今まで、何度か「もうダメだ」と思ったことがあったという。
でもそのたびに、先生のあたたかいハグを思い出し、死を先延ばしにできた。
30年間、あのたった一度のハグが、彼女を生きながらえさせてくれた。
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「だから私も、たとえ報われないとしても、里親として子どもたちに一瞬でもいいからあたたかな記憶をつくりたい。
今日をなんとか生き抜けるように。先生が私にしてくれたように」
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「あの日、先生を突き飛ばしたことを後悔しているんです。
先生もきっと、どうしたらよかったんだろうと悩んだかもしれない。
でもあの時の私には、ああすることしかできなかった」
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彼女がいつか、そのことを先生に伝えられるといいと思う。
でも伝えられないとしても、もう二度と会わないとしても、
先生の愛はちゃんと受け取られて、彼女のいのちを支えてきた。
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私たちはときに「この世界に愛がない」と絶望する。
誰にも愛されず、自分の存在は必要とされないと感じて、居なくなってしまいたいと思う。
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でも、私が今ここに居るのは、今日まで生きてこられたのは、誰かがいつも、途切れなく私に愛を渡してくれていたからだと、
私たちは誰もが本当には、そうやって出会い、関わり合いながら生きているんだと気が付く。
例えばこんな場所で、こんな風に。
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【今日を生き抜ければいい】

【一瞬のあたたかな記憶が、死を選ぶことを先延ばしにしてくれるから】
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昼スナはまるでロードムービーみたいに、たった一人のかけがえのない物語に出会わせてくれます。
来てくれて、伝えてくれて、本当にありがとう。
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