リアルの魅力 - 「いちごさんバス」を終えて
1月15日「いちごの日」
佐賀県の新しいブランドいちご「いちごさん」の名前を冠したロンドンバスが、外苑前から青山、そして渋谷へと走り出した。
よくある宣伝トラック…ではなく「体験型バス」
ロンドンバスの1階には本物のいちごの苗が設置され、いちご狩りができるようになっている。
2階には、三ツ星レストランの経験もある腕利のシェフが手がけた、いちごさんをふんだんに使ったアフタヌーンティーが設置され、ティータイムを楽しみながら、都内を回る。
それが「いちごさんバス」だ。
5日間限定の開催。
前売券は45分で完売し、1月19日、事故もなく無事運行は終了した。
今回の企画を振り返りながら、企画の裏側の発想や、自分自身やって気づいたことを書いてみようと思う。
本物の香りが持つ力
上段の写真が、いちごさんバスの1階部分の写真だ。
リアルないちごの苗を設置し、いちご狩りができるようになっている。
安全上、いちご狩りは停車中のみに体験する。いちごさんバスに乗り込んだら、まずはいちご狩り。終わったら二階にあがって、出発を待つ。
やってみて驚いたのは、乗車した瞬間に「本物のいちごの香り」に一瞬にして包まれるという体験だ。
香料でも、芳香剤でもなく、本物が持つ香りの力はすごい。一瞬にして「あ、本当のいちごだ」と脳が認識し、気分があがる。
元々の企画の発想は、「バスに乗っていちご狩りに行く」という定番の体験を、逆に「いちご狩りがバスに乗ってやってきたら面白いのではないか?」という所からスタートした。
「バス内でのいちご狩り体験」
これは発想の機転もあるが、実現させる方が圧倒的に難しい。いちごは生き物だから。扱いも非常にデリケートだ。
素晴らしい非日常な体験。これを実現させてくれたスタッフと関係各位には本当に感謝しかない。
移動する体験の可能性
過去のAfro&Co.の企画の中でも「移動しながら○○する」という体験づくりは始めてだった。不安もあったが、つくったことのない体験は、やはりワクワクする。
ちなみに、移動中のアフタヌーンティーは「いちごさん」がプレミアムブランドというところからきている。
ただ「話題にする」だけではなく、きちんとプレミアム感をつくりたい。とはいえ、いわゆるギラギラした金持ちイメージとは違う。高級感がありながら、可愛らしく、真っ赤なイメージ。
そう思った時に、リムジンではなくロンドンバス、体験としてのアフタヌーンティーは必然の流れだった。
また、やってみて面白かった、と同時に難しかったのが「イベント会場が動く」という点だ。
実際に動いているという体感や、時間と共に変わっていく景色は変えがたいものがある。通行人の目や、写真を撮られる体験も面白い。
またPR的に言えば、特定の場所に人を呼ぶ必要がない。スクランブル交差点など、人がいる所に出向くことができるから。
難しかった面を言えば、イベント会場が動いていってしまうので管理は大変だ。また当然揺れるので、そこに対するケアも必要。これもまたアイディアよりも実現する方が大変な部分だ。
とはいえ、総合的に「移動する体験」はユニークで、可能性を秘めている。
また、この移動演出については、時間的にやり切れなかった気持ちも大きい。間に合わなかったアイディアも沢山ある。その意味でも、今後もっと面白くなる可能性を感じている。
絵に描いたいちごと、ぶら下がるいちご
今回、個人的にとてもこだわった部分は、立体的ないちごの美術造作だ。
情報を伝えることだけを考えれば、グラフィックをつくって貼ればいい、という考えが一般的かもしれない。
立体物はコストもかかるし、管理も大変だ。
平面のグラフィックとは言わないまでも、プロジェクターで映像を当てたり、LEDビジョンに映せばいいのでは?ともよく言われる。
でも、僕はそれでは達成できない実感がある。
「絵に書いた餅」とそこに佇む餅は違う。
リアルにそこに存在している、ということが体験をリッチにさせる。
そして、それができるのは画面の中の映像やアプリではなく、リアルな体験だからこそだ。そこには表現としてこだわりたいと思っている。
そのせいあってか、この情報が溢れる東京の街で、多くの人が振り向き、写真を撮り、話題を広めてくれた。結果論だが、偶然ではないと思う。
このセンスだったり、感覚だったりは、非常に定量化しにくい。だけど、つくり手であれば共感できる部分だと思う。
何かをつくっている人は、数字で説明できない「自分が感じている何か」を大切にこだわり抜いてほしい。
リアルの魅力には勝てない
めちゃめちゃ色んなことを考えて、考えて、その末に今回感じたことを一言でいえばこれだ。
僕らは便利であることと、魅力的であることを履き違える時がある。
テクノロジーは「便利」には寄与するが、必ずしも「魅力」に寄与するかはわからない。
心惹かれるという感覚を忘れてはいけない。
そこにある、という存在感や、熱量を忘れてはいけない。
「つくられた匂いではなく、本物の香りを」
「シュミレーターではなく、本当に移動するという体験を」
「絵や映像に止まらない、そこに存在するというリアルな表現を」
ふとした思いつきが、魅力的に育つかどうかは、そういった感覚と、前述したように実現させるメンバーの力によると思う。
改めて、スタッフ&関係各位、本当にありがとうございました。
そして、体験をつくるクリエイターのいい刺激になってくれることを願います。
世の中に、もっとワクワクを。
アフロマンス
PS
いちごさんバスは終了しましたが、バスでも提供していた「いちごさんアフタヌーンティー」は、1/28(火)まで外苑前にある「ロイヤルガーデンカフェ青山」で提供されています。
佐賀の名物である気球をテーマにしたオリジナルのアフタヌーンティー。あと数日ですが、お時間ある方はぜひ体験してみてください。
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