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調査助手が悪魔に憑かれやすい体質だった話


タンザニアの村に滞在している間、調査助手としてとある女の子を雇いました。
彼女は川を挟んだ隣村の出身で、日本でいう高校を出たばかりの18歳。
身長は高く、手足が長いすらっとした細身で、まつげが長く、目は大きく、女であるわたしでさえドキッとしてしまうような美しい女の子でした。

彼女には、わたしの調査の手伝いだけでなく、洗濯や掃除など、身の回りの世話を全てお願いしていました。
年の近い女の子の調査助手を得れたことを、わたしはとてもありがたく思っていました。

ある事件が起こるまで...

畑作業もできる調査助手の女の子

悪魔憑きとの出会い

村で調査を開始して2週間ほど経ったある日。わたしは彼女とステイ先のファミリーと一緒に、昼食をとっていました。
その日のメインメニューは村近くの川で採れたナマズ。
ナマズが食卓にのぼることは珍しく、わたしは久しぶりに大きな魚を食べれることを嬉しく思いながら、その日の昼食を食べていました。

その時です。昼食を同じ机で食べていた彼女が、突然苦しむような顔をして、席を立ちました。そして、彼女は「ギヤー」と泣き叫ぶような声を出し、床にごろごろ転がったり、頭を地面に打ち付けるなどの動作を始めました。
わたしは驚きのあまり、身体を動かすことができず、ずっと突っ立ってこの光景を見ていました。

ステイ先のファミリーのパパは急いで家の外に出ました。近所に住む呪術師を呼ぶためです。
ママは彼女がこれ以上暴れないように、彼女の身体を押さえつけようとします。しかし、ママひとりでは、彼女を押さえつけることができません。幸い、近所から叫び声を聞いて集まってきた男性4人でなんとか彼女の動きを封じることができました。
男性4人とママの合わせて5人の力でないと、封じられないほど、18歳の女の子にはありえない力が出ていたようです。

しばらくして、近所の呪術師のおばちゃんがやって来て、彼女に聖水のようなものを葉っぱで吹きかけ、彼女はようやく正気を取り戻しました。

呪術師のおばちゃんは、
「あの女の子は悪魔にとりつかれていた。しかし、わたしが祓ったからもう大丈夫だ」
と言い、謎の草と聖水を彼女に渡しました。

衝撃的な光景を見て、わたしはずっと驚きのあまり固まっていました。
しかし、村の人たちは、彼女が正気を取り戻すと「よかった。よかった」と何事もなかったかのように、戻っていきました。
このように悪魔が憑くことは、よくあることらしく、村人は慣れているようです。

悪魔にとりつかれやすい性質

その後もわたしの調査助手は、度々悪魔にとりつかれます。ある時は食事中。ある時は部屋でくつろいでいる時。

彼女は悪魔にとりつかれやすい性質だそうです。特に「食」に関して禁忌事項が多く、それを破ると悪魔にとりつかれてしまうと言います。
例えば、肉はほとんどダメ。唯一、彼女が食べれる肉は、鶏肉だけで、豚肉も牛肉も野生獣の肉を食べると悪魔にとりつかれてしまいます。
また、魚に関しても、全ての魚を食べれるわけではありません。ナマズも彼女は食べれないそうです。
その他、虫や牛乳もダメ。

村で採れた野生獣(ウシの仲間)

彼女だけがそれらを食べられない分には問題ないのですが、困ったことに、これらの食べ物を食べた人が彼女に触れるののもダメです。
例えば、わたしがナマズを食べて、手をよく洗わずに、その手で彼女に触れると、彼女に悪魔がとりついてしまいます。
ちなみに、わたしが石鹸でよく手を洗えば、大丈夫だそうです。水だけの手洗いは意味がないそうです。
また、特に豚肉は危険らしく、一度でも過去に豚肉を載せたお皿や過去に豚肉を切った包丁を触ることは、彼女はできませんでした。

というわけで、わたしは食生活に大変苦労しました。彼女と一緒に食事をとるため、図らずして、ベジタリアンのような肉無し生活を余儀なくされました。
また、彼女と一日中一緒にいたので、いつどこで彼女が悪魔に憑依されるのかドキドキしながら、落ち着かない生活を送っていました。

悪魔付きの彼女との別れ

その後も月一くらいの頻度で彼女は悪魔にとりつかれます。
最初は、彼女が悪魔に憑依される度にあわあわしていたわたしも、何度か経験を繰り替えすうちに、彼女の悪魔憑きに慣れていき、
「今回の悪魔は大人しめなやつで良かったな」
と、思うこともありました。
マンガみたいなセリフを日常でつかうようになるとは。

しかし、この生活は長くは続きませんでした。
彼女と生活を始めて6か月ほど経った雨季の始め、また彼女が悪魔に憑依されました。
ある夜中の2時、ベッドで寝ていると、突然彼女が悪魔にとりつかれました。彼女は、狭い部屋のなかで暴れ、泣きわめきながら、ベッドの下にストックしていた、聖水や薬となる葉っぱを部屋中にまき散らします。
夜中に憑依されたのは、この時が初めてでした。
わたしはびちゃびちゃに濡れたベッドの上から何とか這い出て、部屋の隅に隠していた米が濡らされないように、米の上に被さっていました。
カオスな状況です。

事件が起こった部屋(汚くてすみません)

ほどなくして、近所から騒ぎを聞きつけて、呪術師のおばちゃんがやってきました。
いつも通り、謎の葉で聖水を彼女に振りかけると、彼女は落ち着きを取り戻しました。
夜中であるにもかかわらず、悪魔が取りついた原因を探ると、彼女はぽつぽつとその経緯を語りました。

「夜中、ふと目が覚めると、部屋の隅に人の形をした黒い影が立っていたの。その陰が私の名前を呼んだから、わたしは返事をした。するとわたしは悪魔にとりつかれてしまった。」

なんだそりゃ。怖すぎ。その時、わたしもその部屋で寝ていたんだぞ。

そして彼女は、
「もうこの村にはいられません。わたしは自分の家がある隣村に帰ります。」
と言って、荷物をまとめて家を出て行きました。
そして、雨季初めで水量が増した川を渡った先にある隣村に帰り、そのまま彼女は戻ってきませんでした。

初めてのアフリカで、初めて雇った調査助手が悪魔にとりつかれやすい子だったのは、わたしには刺激的すぎっでした。もっと普通の子が良かった!
今振り返ると、興味深い出来事だったなと思えるけれど。

彼女以外にも、村の呪術系の出来事は色々とあったのですが、それはまたの機会に。

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