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『花降る空に不滅の歌を』柴那典さんによるライナーノーツ。

さて、本格的な投稿は初になります。いよいよ来週には発売日ということで、いわゆるサンプル盤が本日、届きました!そして、明日、明後日といろんなお知らせが続くので、お楽しみに!

そして、とてもお世話になっている音楽ジャーナリスト・柴那典さんより、『花降る空に不滅の歌を』のライナーノーツが届きました!
アルバムが楽しみになること間違いなしですので、ぜひお読みください。

※曲の内容や歌詞に触れていますので、事前に知りたくない方はご注意ください。

すでに長いキャリアを歩んできたロックバンドなのに、
a flood of circleは今もすごく前のめりで、バンドを率いるソングライターの佐々木亮介はこんなにもピュアで、こんなにもロマンチストなんだということを改めて感じられるアルバム。
すごくヒリヒリとしていて、その一方でときにユーモラスで、かけがえのない時間を楽しもうという意志に満ちていて、その背景には殺伐とした今の時代性から目をそらさずに向き合う覚悟がある。新作『花降る空に不滅の歌を』の10曲から受け取ったのはそういうムードだった。

収録曲の「花火を見に行こう」がリリースされたのは昨年7月。前作アルバム『伝説の夜を君と』をひっさげたツアーを初ホールワンマンライブのLINE CUBE SHIBUYAで締めくくったタイミングだ。10月には代々木公園野外音楽堂で約4000人を動員したフリーライブ「I'M FREE 2022」を開催した。そこで初披露し終演後に無料配布した曲が「Party Monster Bop」。結成17年目となってもバンドはずっと止まらずに動き続けていて、ここにきてその勢いや求心力も増してきて、そういうバンドのエネルギッシュなテンションも新作には反映されている。
フロアを盛り上げるキラーチューン「Party Monster Bop」、キラキラとした刹那のきらめきを歌う「花火を見に行こう」という2曲の既発曲と共に、アルバムの核になっているのは先行公開されたタイトルトラックの「花降る空に不滅の歌を」だ。パンキッシュな疾走感とクルクルと展開する目まぐるしい曲構成を持った曲。「頭ん中 爆音で 大好きな歌を聴いてる」と歌うメロディはとてもチアフルだけれど、その一方で「冷徹なる冬風は 悲しい報せ 繰り返す」という歌詞やさまざまな言葉の断片には、戦争によって無辜な人々の命が奪われてしまっている今の社会状況を想起させるようなところもある。
で、そういう時代のムードや、そのなかで表現者としてどうあるべきかみたいな葛藤とか、いろんな複雑な思いも背景にうっすらと感じるんだけど、アルバムの魅力になっているのはそういうところじゃない。
前景に打ち出されているのはむしろ真逆。ネジが飛んじゃっているというか、底が抜けているというか、スマートさや利口さをぶっちぎった突き抜け感がある。それが痛快さにつながっている。その代表がアルバムの1曲目に置かれたリードトラック「月夜の道を俺が行く」。再生ボタンを押すと佐々木亮介のヒリついた声のシャウトからアルバムが始まる。ライブで盛り上がることは間違いなしのキラーチューンだけど、その一方、ちょっとおどけてるようなところもある。冷静に歌詞を読むと「終身刑 俺」とか「気づけば結局佐々木亮介」とか、おかしな言い回しも出てくる。ユーモラスな言葉遣いも交えつつ、自分のアイデンティティが音楽にしかないということを歌っている。
続く2曲目の「バードヘッドブルース」は「俺はまだバードヘッド カラスサイズ脳ミソ」と歌う曲。やっぱりこの曲も「俺にはこれしかできない」ということが曲のテーマになっている。で、ぎゅっと塊になったロックンロールのバンドサウンドと、叫びのような歌を放ってどんどん先に行く曲調がそれに説得力を与えている。佐々木亮介と渡邊一丘(Dr)、HISAYO(Ba)、アオキテツ(Gt)の4人組になって5年目になったバンドの一体感もそれに寄与しているのかもしれない。

「パッパラパーララララ お金ください」と歌う4曲目の「如何様師のバラード」は相当に変な曲。嘘と本当が入り混じる世界を皮肉っぽく歌ってるんだけど、言葉の選びかたも歌いまわしもコミカルで、このあたりのスパイシーな感じはa flood of circleにとっての新機軸と言えるかもしれない。
アルバムの前半はそうやって一心不乱に駆け抜けるような曲が続く一方で、後半には「自分には何ができるんだろうか」ということに向き合い、パーソナルな心情を綴った曲も並ぶ。たとえば曲名がそのまま歌のテーマになっている「本気で生きているのなら」。たとえば写真に残っている色褪せない思い出を振り返る「カメラソング」。「GOOD LUCK MY FRIEND」は「俺の友達 バンド 教えてくれた 古くて 暑苦しくて 引き際を失ったやつらのアルバムを」と、今は遠い空に旅立ってしまった友人に捧げる曲だ。聴き終えて気付くのは、「喪失」が作品にとっての大事なモチーフになっているということ。そのことを踏まえて考えると、「月夜の道を俺が行く」で佐々木亮介が叫ぶ「死んでたまるか」という言葉や、「Party Monster Bop」での「ありったけ 使い果たすまで 絶対死ぬな」というフレーズにも、陽気で痛快な曲調だから気付きにくいもう一つの意味合いが込められていることに気付く。

だからこそ「不滅の歌」をタイトルに掲げたのだろう。やっぱりすごくロマンチストだと思う。


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