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【第5回】今日、何ひろう?~新しい知覚のフレーム~ 包囲光とは?

第一章 世界の拾い方

第一節 世界の切り分け方(見えているもの・感じるもの)


2.包囲光

世界は3つの要素で作られ、それらを見て、触って、感じてあらゆる情報を手に入れていることが分かりました。

ここでは、情報を手に入れるための土台となる光について話します。

5.6歳のころ、両親の寝室でよく怖い思いをしていました。部屋の電気を消すと、別の部屋に瞬間移動したかのように、ぼんやりとした暗い空間が広がり、ついさっきまで遊んでいたぬいぐるみやハンバーに掛けられた洋服が怪物の物影やお化けに見えました。光のない空間では、いつも知覚しているはずの奥行きや遮蔽が曖昧になり、そこにない何かが見えたりします。

このことからも分かるように、光は私たちが世界の情報を得るために必要不可欠な存在です。

光と言えば、1秒で地球を7週半できるほど早く、それゆえに一方向に一直線に進むと思われがちです。しかし、ギブソンはそれだけではないと考えました。

直線に進む光は、壁やモノだけでなく、空気中の微小な塵やモノの表面にある多様な肌理に飛び込み、凹凸に衝突して散乱反射を起こします。光は発散するのではなく、その過程で様々な衝突を経て私たちを包み込むと考え、ギブソンはそれを「包囲光」と名付けました。

放射光と包囲光

ここで思い出してほしいのが「媒質medium」の存在です。知覚世界の1要素である「媒質(medium)」は、透明で、振動を伝播し、匂いを広げ、さらにその柔らかさゆえに私たちに移動や呼吸を可能にしてくれます。「媒質(medium)」が持つその均質性こそが、包囲光をつくってくれます。

〇包囲光配列

包囲光が均質な空気の中で飛び交うとき、実は周囲の状況によってその姿は異なります。空高くでは、ぶつかったり反射したりするところが少ないため粗い包囲光となり、一方で地上近くの多様な「物質(substance)」「面(surface)」が存在する場所では、光が散乱反射を起こすことによって密な包囲光となります。

このような、周囲の面のレイアウトに由来する包囲光の構造を「包囲光配列」と名付けられています。包囲光配列は、「立って座る」「首を曲げてみる」といった些細な動きの中にある面のレイアウトの変化によっても構造を変えるものです。

些細な「移動」によって変わる包囲光配列

この包囲光と包囲光配列の中で、私たちはどのように情報を拾っているのでしょうか?

〇包囲光配列の中の生活

試しにスマホを手に取って傾けたり裏返したり、スマホを置いて自分が移動してみましょう。すると、動きの変化によって四角形から一直線になったり、台形になったり・・・。画面に光が反射して黒い面が白い面に変身したり・・・・。同じ物体が姿かたちを変えてしまいます。

それにもかかわらず、この四角や台形に姿を変える物体を同じスマホだと認識できるのは、なぜでしょうか?それは、私たちが「変化の中にある不変」を見つけ出しているからです。移動することによって次々と変わる包囲光配列の中から、私たちはスマホの一定の比率を読み取り、不変項をピックアップし、それによって「これは同じスマホである」という情報を拾うことができるのです。

「変化の中にある不変」を見つけるには、移動が必要になります。私たちが動くことのできない生き物だとしたら、同じ包囲光配列の中に生き続けることになります。目に映るもの正体を想像することはできても、真実を知ることが出来ないまま過ごし続けることになります。

均質な空気が生み出す包囲光の中で私たちは情報を知覚し、移動が生み出す包囲光配列の構造変化によって、常に新しい情報をピックアップし続けているという事を知れば、日常生活にあふれるちょっとした「移動」がより楽しく感じられるでしょう。

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