225.カウントダウン

仕事中なのに思わず呟いてしまったけど、彼の単身赴任生活があと3ヶ月で終了することがわかった。
彼の予定表に急遽上司との面談の予定が入っていることに気づいて、昨日の家族帯同の話は本当なんだなとわかった。

仕事の合間に会議室に篭って少しだけオンラインで話したら、どちらにしても3月末で単身赴任解消が決まっていると聞かされた。
上司にもそのあたりを話したらしい。
こちらに残るなら家族と住むための家も探さなきゃいけない。もし地元に帰るならそれでいいけど、と。

なぜそんな急展開なのかと思ったけど、実は少し前からそんな話は奥さんとしていたらしく、この年末の帰省で何かあって決定事項になってしまったようだった。
なんとなく少し前から彼が連絡をくれなかったりしていたのもそういう理由があったのかもしれない。

あと、奥さんとはもうこの休み中はセックスしない宣言をしたりしてて、その理由もわからない。聞いても「色々あるんです」としか言わない。

「そっちへ戻ったら話しますから」と言われて、
「話してくれるんですね。愛人には言えないことかと思いました」と自虐的に笑った。全然面白くないけど、笑い飛ばすしかなくて。

「まあ、まだ先のことですから」
「まだ先って、あと3ヶ月ですよ。もうどうせなら、山口に帰ってほしいです」
冷たい言い方かもしれないと思いつつ、つい口に出してしまった。彼はそれに対して特に何も言わなかった。

少しの会話の後、仕事に戻っても上の空だった。
周りは年末で忙しくしているのに、手につかない。
ちょっと気が緩むと泣いてしまいそう。

彼の気持ちが全く見えない、というか、彼には何も決定権がなく、何も変えられないから感情を持つことすら諦めているようにも思える。
もし、感情的に「僕だって別れたくない」とでも言ってくれたら少しは救われるのに。

その日がどんどん近づいている。
遠距離になれば物理的に会えなくなる。
もう一つの選択だって、彼が家族と一緒に暮らしながら私と会っている姿が全く想像できないのだ。不倫を続けることがどれだけ困難なことか少し考えればわかる。家族と一緒にいたら発覚する確率だって高くなってしまうだろう。

何か大きなものが失われるようで、この感情をどう処理したらいいのかわからない。
生きてて楽しいことあるのかな、なんて思ったり。
いや、彼と付き合う前だって私は十分楽しく生きていたはず。趣味に打ち込んだり、気の合う友だちと会ったり。
彼と付き合うことで、本当に幸せと感じることはあったけど、こんなに辛いなら最初からなかったほうが良かったなんて、身勝手なことばかりが浮かんでしまう。

そういうこともすべて含めて自分から踏み入れた世界なのに。いざその時が来ると思うと現実から目を背けたくなる。


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