9月2日

マリンバの音は、思いがけず水のような音がする。

柴田南雄氏の「カドリール」をききながら、そんなことを思った。

思いがけず、とつけたのは、楽器の姿かたちからは「水」というイメージは程遠い物のように思えるからだ。そもそも、これは木製の楽器であるのだし。

わたくしは、この「カドリール」という作品を今日初めてきいた。

聴きはじめてしばらくしてから、
「これは、ししおどし にインスピレーションを受けて作ったのではないか?小鼓が竹筒で、マリンバが水なのではないか?」という考えが頭の中に充満した。真相はまだ調べていない。


さらに、奏される小鼓の不規則な間とリズムを聞いているうちに、わたくしは、柴田氏が本の中で次のように書かれていたことを思い出した。

(中略)

それと、あの間である。

流れを受けて、少しずつ筒に注ぎ込まれた水が、バランスを崩すまで溜まるのを待っている長い間。バランスが崩れた瞬間に一挙に水は放出され、反動で筒の他の一端が石を打つその呼吸は実に微妙であり、まるで生き物のようだ。

能楽の鼓の間に非常に似ている。

(以下略)

(「日本の音を聴く」/柴田南雄 文庫オリジナル版—日本の音を聴く 十九 ししおどし より引用。)


流れ、滴るマリンバの音。次の一手が予測できない小鼓の動き。間。それから形容しがたいほどに絶妙な電子音。

同時に鳴る音の数はほとんど常に、極めて限られているが、不思議と濃密な響きがする。とても微妙なバランス。


作品をききおわったあと、味わったことの無い感覚がわたしの中でふつふつと沸き立った。

わたしはこの作品を通してほんとうに不思議な体験をした。

そしてなにより、この作品では、今まで見たことの無いマリンバの別の側面を見せつけられたような気が強くする。

水のようなマリンバ。


わたくしもいつか、こういった体験のできる作品が作れたらと思う。