見出し画像

IoE社会実現への布石――ワイヤレス給電の実用化に向け、総務省が省令改正を発表。その概要と改正後の社会像を解説

総務省は本日5月26日、「電波法施行規則等の一部を改正する省令(総務三八)」を発表しました。これは、「空間伝送型ワイヤレス電力伝送システムの導入のための制度整備」を目的とした省令です。

この省令は何を意味するのか、社会はどのように変わるのか、そして、エイターリンクの事業にどのように関係するのか、代表取締役COO 岩佐凌が解説します。

ワイヤレス給電とは?

ワイヤレス給電は「電源線や金属の接触を用いずに電力伝送する技術」のことです。

スマホやEVの充電器とは違うの?

まず、「ワイヤレス給電」と一言でいっても、様々な方式があります。近距離に大電力を送電するものから、長距離に小電力を送信するものまで、主に6つの方式があります。

すでに皆さんの生活の中に溶け込んでいるモノも多く、例えば「スマホやEV自動車の充電器」「充電式電動歯ブラシ」「SuicaなどのICカード」があげられます。これらは「磁界結合」や「電解結合」といった低周波数かつ近距離への電力伝送という特徴を持った方式のワイヤレス給電技術を基に、電波の性質から外部への影響はないとされ、すでに実用化されています。

(出所:株式会社Wave Technology)

しかし、今回省令で緩和される「空間伝送型ワイヤレス電力伝送システム」は磁界結合とは違い、機器への中長距離無線給電を目的とした、マイクロ波方式のワイヤレス給電システムのことになります。

給電量こそ磁界結合方式より少ないものの「10~20mといった中長距離への給電が可能」「複数のデバイスへの給電が可能」「動いている物体への給電が可能」といった特徴があります。

省令緩和の概要は?

今回の省令緩和の内容は5.7GHz、2.4GHz、そして920MHzの三つの周波数帯で「無線電力伝送」用の電波が使用可能になったということです。
各周波数によって、下記の表のような特徴があります。

参照:「空間伝送型ワイヤレス電力伝送システムの技術的条件」のうち「構内における空間伝送型ワイヤレス電力伝送システムの技術的条件」に関する一部答申別紙2

ここでご注目頂きたいのは、人がいる環境下で使用可能な周波数は920MHz帯だけということです。当社の考えるワイヤレス給電システムは人の生活に結び付くことを前提に設計しているため、920MHz帯のワイヤレス給電システムを活用しています。
ここからは920MHz帯に絞ってご説明します。

920MHz帯ワイヤレス給電の給電ターゲット

前述の通り、マイクロ波ワイヤレス給電はすでに実用化されているものより電力を長距離に送れるものの、その出力は1Wまで。つまりマイクロ波ワイヤレス給電はスマホや電子レンジのような大電力を必要とする機器の給電には向いていません。電波の性質上、伝送距離が伸びれば伸びるほど受電量が下がってしまうため、センサーや電子タグのような省電力で動くデバイスがメインのターゲットになると考えられます。

今920MHz帯は別用途で既に使用されており、代表的な物としてRFID(Radio Frequency Identification)があります。昨年、ユニクロが購入商品の入ったかごを置くだけで自動会計されるセルフレジを発表して話題になりましたが、これもRFIDを用いたシステムによるものです。このRFIDは、現在6チャンネルが設けられていますが、このうちの2チャンネルが、今回、ワイヤレス給電にも割り当てられることになります。

無線局が新しく作られることのなにがすごいの?

電波は公共の財産といわれています。電波法第1条では、「電波を用いた活動をする際に他者の利益を損害しないように」とうたわれており、公共の福祉に資する使い方が求められています。そのため、総務省に新しい無線局の開局してもらうためには、最低限下記3つをクリアする必要があります。

ほかの電波への影響を及ぼさないこと
周波数帯とは字のごとく、電波の通る帯(おび)です。そのため、ほかの電波とぶつかって混線を起こすことのないよう道路のようにきちんとした整備がなされています。しかし、電波は車のように目視できません。そのため、国は電波の使用を管理しており、電波を使用する事業者は、「ここに無線局を開局します。ここでは、このような電波を使います」と総務省に申告するとともに、「申請したとおりの電波を使っています」と証明することが必要です。

人体に影響を与えないこと
強い電波は人体に強い影響を与える可能性があります。神経を刺激して体調を崩したり、体温が上昇して健康を害したりしないよう国際的な基準(通称SAR)がガイドラインとして定められています。具体的には動物実験に得た実測値の1/10以下(関連作業従事者)、生活者に対しては、さらにその1/5以下にSARを抑える必要があります。本省令改正も、この基準値をもとに設計されており、エイターリンクが使用する電波も当然基準値を下回っています。
※SARとは?・・・Specific Absorption Rateの略。電波が人体に当たると、エネルギーの一部は人体に吸収されて熱に変わります。そのエネルギー比吸収率のことをSARと表します。

③国や国民にとって有益な電波であること
前述した通り、電波は国民全体の財産ですので、電波を飛ばしてみたいから使うといった無線局の開局は許可が下りません。また有益な電波が出てきたにもかかわらず、すでに周波数帯いっぱいに電波が使われている、となると私たちは社会的に大きな損失を被ることになります。そのため、総務省はすでに実用化が見込まれ、かつ国民に対して大きなメリットがあるとみなされた電波にのみ無線局を開設しています。

これらを踏まえると、今回の省令改正は、「国が、ワイヤレス給電は我々の生活を豊かにする革新的な技術である」と認めた結果とも言えると、私たちは考えています。

IoE社会到来に向け、期待を背負うワイヤレス給電

ところで、国はワイヤレス給電にどのような期待をしているのでしょうか。総務省の資料に目を向けると、そこには2030年代に期待される社会像として、サイバー空間と現実世界が一体化する『サイバー・フィジカル・システム』を構想していることがわかります。これは現実世界のデータをサイバー空間で蓄積・分析し、現実世界で利活用していく、というものです。その重要なハブとして、期待されているのが各産業領域に存在するIoT(Internet of Things)へのワイヤレス給電です。

IoT社会といわれて久しいですが、2030年にはその先のIoE(Intelligence of Everything)社会に突入するといわれています。このとき情報取得の役割を担うIoTセンサーは急激に増加し、2040年には全世界で45兆個稼働していることが予測されています。しかし誰もが頭の片隅で「このおびただしい数のセンサーにどのように給電するのだろう」と疑問に思っています。というのも、現在、センサーには配線やバッテリーで給電するしか方法がなく、設置にはコストの問題や物理的な制約があるからです。一方、ワイヤレス給電をセンサーに用いれば、電池交換の必要はなく、電波さえ届けばどこにでも設置できます。これまで10のセンサーしか設置できなかったところに1000のセンサーを設置できるようになれば、情報は100倍に増えます。すると、情報の網羅性が高まることから、社会的課題のさらなる解決や新たな価値の創造につながる、と考えられているのです。

このように、ワイヤレス給電はIoE社会のキーテクノロジーとして期待されています。国はそのユースケースとして、工場や倉庫、配送センターにおける品質管理、介護施設での見守り、ショッピングモールでのプライス管理、さらにはトンネル内の変状監視などに役立てることを検討しています。これらへの導入により普及が広がった2025年には国内で5520億円、世界で1.6兆円の市場が生まれるとの予測も立っています。(※当社調べ)

私たちの生活は、どう変わるのか

実際IoE社会になると、私たちの生活はどう変わるのでしょうか?
当社が考えるのは「人と人」「人とモノ」「人と空間」がデジタル情報のみでつながる世界です。

例えば、皆さまの情報は全てクラウド上で繋がっているので(希望に応じて情報をシェアするか否かを選択できますが)、初めて行くレストランでも味の好みやアレルギー情報などが共有され、どのお店でも最適な接客を受けることができ、会計もお店をでるだけで自動決済されます。

また、私たちの生活の至るところに設置されたセンサーによって、生体情報が常にチェックされ、わざわざ健康診断を受けなくとも病気の早期発見が可能になります。

ワイヤレス給電元年。ビジョン実現のためのスタートラインに立てた

たとえば10年前、パソコンとインターネットをつなぐために多くの人がイーサネットを利用していました。しかし、いまではwi-fiが普及し、イーサネットを使う人は少数派です。これと同じようなことがワイヤレス給電でも起きようとしています。2030年の実用化を目指している6Gも、上述のIoE社会を前提とした規格です。今回の省令改正をきっかけに、今後、ワイヤレス給電は、生活者にとってもどんどん身近で便利なものになっていきます。そして、いまある配線はワイヤレス給電に置き換わり、数年以内にはWi-Fiのようにシンギュラリティを起こす世界が想像できます。

まさに、今年は、『ワイヤレス給電元年』。私たちエイターリンクの目指す、「ワイヤレス給電で配線のないデジタル世界を」に通じる最初の一歩をようやく踏み出すことができた、と思っています。

繰り返しになりますが、デジタル世界とアナログの現実世界とのゲートウェイである、センサーとワイヤレス給電は切っても切り離せない関係です。ワイヤレス給電への期待は非常に高く、グローバルの視点でも大きな市場が広がっています。

エイターリンクは、ワイヤレス給電の社会実装に向け、開発をいっそう加速させながら、技術を磨き続ける必要性と責任を改めて感じています。足元の普及と、その先の市場拡大に向けて挑戦し続けるエイターリンクに、ますますご注目ください。

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!