北欧と日本を結ぶジャズが届けてくれた大きな贈りもの~スウェーデン・ジャズ・ウィーク2024
昨年に続き今年も「スウェーデン・ジャズ・ウィーク」が開催された。
スウェーデンが国家として成立したのは、1523年にグスタフ・ヴァーサがヴァーサ王朝を開基したときとされ、2023年はそれから500年の節目の年。2023年はまた、現国王であるカール16世グスタフの即位50年でもあったことから、6月6日のナショナル・ディ(建国記念日)を中心にさまざまな祝賀イヴェントが国内外で行なわれた。
そのひとつが“スウェーデン・ジャズ・ウィーク”で、スウェーデンを代表するミュージシャンを日本に迎え、両国の文化交流の一助にするとともに、日本でもファンの多いスウェーデンのジャズ・ミュージシャンたちの生演奏をたっぷり楽しんでしまおうという、欲張りで贅沢な趣向だったのだ。
2回目の今年は、5月29日から31日までの3日間、東京のジャズ・スポット3ヶ所において日本在住のミュージシャンも交えてのスペシャルなステージを実施。さらに6月1日には、“スペシャル・コンサート&ワークショップat SHOBI”と題して、招いたスウェーデンのミュージシャンたちによる演奏と、彼らを講師として尚美ミュージックカレッジ専門学校の学生たちによる演奏を評する機会が設けられた。
ボクは最終日の“スペシャル・コンサート&ワークショップ”に惹かれたので、取材させてもらうことにした。
第1部 スペシャル・コンサート
当日は、スウェーデンのミュージシャンたちによる演奏からスタート。
メンバーは、ペーター・アスプルンド(トランペット、フリューゲルホーン)、カリン・ハマー(トロンボーン)、ビョーン・アルコ(テナー・サックス)、フィリップ・エケスチューベ(ピアノ)、ハンス・アンダーション(ベース)、ヨーハン・ロフクランツ・ラムセイ(ドラムス)、エマリーサ・ハランダー(ヴォーカル)、アンチ・ヘグベリ(ヴォーカル)という面々で、曲ごとに編成を変えてそれぞれの個人技とアンサンブルを披露する、という趣向だ。
選曲もヴァラエティに富んでいて、オープナーの〈朝日のように爽やかに〉のようなジャズ・スタンダードもありながらのメンバーのオリジナル多めで、“模範的セッション”にとどまらない、スウェーデン・ジャズの現在を伝えようとする意気込みが伝わるステージとなっていた。
なかでもジャズのスタンダードとして知られる〈ディア・オールド・ストックホルム〉とスウェーデンのフォークソングを融合したアレンジのエピソードや、スウェーデンに伝わる「音楽を始めると山々の景色が見える」という言葉の紹介などは、曲の解釈や演奏者のオリジナリティを表現方法に結び付けていく大きなヒントになったのではないかと思う。
第2部 ワークショップ
休憩を挟んで第2部は、学生バンドが1曲ずつ演奏してそれをスウェーデン・ミュージシャンたちが講評するというワークショップが行なわれた。
メンバーからは、曲の物語をどう伝えればいいかといったアプローチ論から、オン・ビートとオフ・ビートの練習方法といった具体的な技術論までを交じえながら、時にはステージ上で学生と一緒に音を出しながら説明するといった、第1部の演奏以上に熱いシーンも繰り広げられていた。
例えば、学生たちの演奏が「バラバラでなにを描こうとしているのか伝わりにくい」という指摘は、同じように個性を活かすことでバラバラに見えるプロたちの演奏に「それぞれが絵を仕上げていこうというアプローチ」が内包されることで、演奏自体がバラバラにならないひとつのヒントになることを体現してくれていたりする。
ジャズにとって最重要とも言えるタイム感についても、単純なフレーズのコール&レスポンスを練習することで改善できるといった具体例が授けられていた。
さらに、バンドにおけるベースの役割、コードに頼るのではなくメロディを歌うことでフレージングを作っていくこと、音を詰めすぎずに間を空けることなどの大切なポイントを惜しみなく伝えてくれていた。
ジャズに限ったことではないが、真似ることによって憧れの対象に近づくことが上達のセオリーであるケースも多いなか、真似ているだけでは越えられない壁に当たることもまた多いと思う。
そんなときに、こうした“プロ”からアドヴァイスを受ける機会のあることが、どれほど貴重で効果的か──。
ステージ上の学生はもちろん、客席で観ていた人たちにも身に潜みた体験になっていたんじゃないだろうか。
スウェーデン・ジャズ・ウィークは、スウェーデンの建国記念と日本との友好のためにスタートしたイヴェントではあるものの、これだけの大きなジャズ的な贈りものをもらうことができるのであるからには、さらなる友好への後押しと、恩返しを考えなければいけないんじゃなかろうか。
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