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マリオン・バルボーの魅力が炸裂する傑出したバレエPV|映画「ダンサーインParis」(試写memo)

タイトル・ロールを挟んで冒頭の約15分は、バレエ作品「ラ・バヤデール」を踊る主人公エリーズを追った舞台の映像が続く。

エリーゼは、パリ・オペラ座バレエ団でエトワールを有望視される逸材だ。

パリ・オペラ座バレエ団は国立の組織で、世界最高峰とされる4大バレエ団のひとつ。

エトワールは、パリ・オペラ座バレエ団の階級最上位の名称。

冒頭でエリーズが重要な役どころであることを匂わせながら、舞台のようすが映し出されていく。

会話はほとんどなく、タイトルロールが終わると、舞台のフィナーレでエリーズが足をくじく場面に移る。見事な序破急の序から破への展開だった。

エリーズが足を痛めるのは3度目で、1〜2年はポワント(バレエシューズ)を履いての練習はしないようにと警告されてしまう。

1〜2年という期間の休止は26歳のエリーズにとって、それまでの人生を全否定される宣告だった。

バレエを始めるきっかけをつくった母とは12歳のときに死別。

以降、男手だけで彼女を育てた父からは「法律を学べばよかった」と、バレエの世界で生きてきたことを理解されていなかった。

いたたまれなくなって、親友のサブリナに連絡をとる。

サブリナは18歳でバレエから離れ、女優をめざしていた。副業のひとつとして、恋人で出張料理人の彼氏のアシスタントをしている。

エリーズもなりゆきで彼女を手伝うことになるのだが、依頼先のブルターニュのレジデンスでコンテンポラリー・ダンスの著名な振付師、ホフェッシュ・シェクター(=本人)と出逢い、舞台に誘われて、彼女のクラシックバレエ一色だった人生が変化していく……。

冒頭シーンで劇中劇として挿入されるバレエ作品「ラ・バヤデール」は、舞姫ニキヤが結婚の誓いを立てた若き英雄ソロルに裏切られ、その相手であるガムザッティの侍女が仕掛けた毒蛇に咬まれて死んでしまう──という古代インドを舞台にしたストーリー。

その悲劇が、演じているエリーゼに重なる。

上演中に彼女の恋人の(はずだった)共演者のジュリアンが、ダンサーのブランシュと舞台裏でキスをしているのをエリーゼが目撃。

その動揺がエリーズをケガ、すなわち悲劇に導くというオマージュ的構成になっている。

バレエ・ファンはこれに気づき、「ラ・バヤデール」では全員が死を迎えるという壮絶なエンディングであることに思いが至り、この映画では果たしてどう展開するのかを見守りながら進んでいく、ということになるわけだ。

「バレエは女性の悲劇の話ばかり」というセリフが出てくるように、本作もジェンダー・バイアスの問題を織り込みながら、しかし選択肢の増えた現代では悲劇に替わる希望もあることを示しながら、エンディングへと向かっていく。

観終わると、古代の悲劇にどのような現代的解釈を施したのかとか、ジェンダー・バイアスについてどのように対応すればいいのかといった問題意識の提示が些末に思えるほど、主人公エリーズを演じたマリオン・バルボーの魅力を引き出すための映画だったのではないかと思えてくる。

そう、本作はマリオン・バルボーのプロモーション動画と言っても過言ではない。

しかし、古来“アイドル映画”と呼ばれるものにも名作に肩を並べるものは少なくないのだから、“アイドル映画”を低く見てはいけない。

118分のPVに観客を釘づけにすることは、演者に脚本、そして演出・編集が優れていなければ叶わないはずだ。

それはつまり、脚本と演出・編集に力を注いでもらうほどの魅力を、カメラの前のマリオン・バルボーが放っていたからにほかならないのだから。

ダンサーインParis
原題:En corps
監督:セドリック・クラピッシュ
振付・音楽:ホフェッシュ・シェクター
出演:マリオン・バルボー、ホフェッシュ・シェクター、ドゥニ・ポダリデス、ミュリエル・ロバン、ピオ・マルマイ、フランソワ・シヴィル、メディ・バキ、スエリア・ヤクーブ
2022/フランス・ベルギー/フランス語・英語/日本語字幕:岩辺いずみ/118分/ビスタ/5.1ch/英題:Rise
日本公開:2023年9月15日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開
提供:ニューセレクト、セテラ・インターナショナル
配給:アルバトロス・フィルム、セテラ・インターナショナル
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ、UniFrance/French Film Season in Japan 2023

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