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学会の発表はツイートできます

冒険家の皆さん、今日もラクダに揺られて灼熱の砂漠を横断していますか?

さて、先週末は日本語教師チャットが行われ、少なくとも92名の方が600程度の投稿をして「日本語教師に必要な能力とは」というトピックを巡って意見交換を行いました。ご参加くださった皆様ありがとうございます。

この週末は同時に、島根県の松江で日本語教育学会の大会があり、僕は例によって島根まで行けなかったので参加できず、ライブ配信もなかったので、日本語教師チャットが終わった直後に「#日本語教育学会大会」という大会の公式ハッシュタグをツイッターで開いてみました。 Twitter にも書いていたのでご存じの方も多いかとは思いますが、その時点では公式ハッシュタグを使った投稿は公式アカウントによるものだけで、一般参加者は誰一人公式ハッシュタグを使って情報共有をしていませんでした。

僕は島根の学会に行っていた同業者には何人も知り合いがいますし、中には変わった人もいますけど、そのほとんどは情報を独占して他の人に共有したくないような、極悪人ではありません。ごく普通のまっとうな人達です。そのような真っ当な人たちなのに、なぜ島根まで行けない人達に情報を共有しないで独り占めしているように見えることをするのか、僕にはまったく分かりませんでした。

ただ、その後 Twitter で投稿された意見を見てみると、もしかしたら「著作権法上の制約があって情報を共有してはいけない」と考えている人がいるのではないかと気が付きました。それで今日は、学会で発表された内容を Twitter で共有していいのかということについて僕の考えを書いておきたいと思います。

端的に言うと、全く問題ないので、どんどん Twitter で共有していただければと思います。

【引用について】

まず一番わかりやすい「引用」について、ご紹介します。引用というのは転載と違って、著作権者に無断で行うことができます。ですから「無断で転載しないでください」と学会の運営者が言うことはあるかもしれませんし、それは法的にも全くその通りなのですが、引用は勝手にしてもいいのです。 著作権のことを知らない団体だったら「無断で引用しないでください」とか言うかもしれませんが、そんなものには従う必要はありません。実際に Web サイトで、「無断の引用は泥棒さんです。お金を払ってください」などと書いているところがあって、それについてはこのブログでも「引用は泥棒ではない」 http://mongolia.seesaa.net/article/468447442.html というタイトルで批判しました。これは、故意にそんなこと言っていたら逆に詐欺罪に該当してしまう悪質な嘘です。詳しくは参考資料の欄をご覧ください。

それでは「引用」とは具体的にどのようなことなのでしょうか。ここでは文化庁の資料をご紹介しておきます。

≪引用≫
 著作権の制限規定の一つです(第32条)。 例えば学術論文を創作する際に自説を補強等するために、自分の著作物の中に、公表された他人の著作物を掲載する行為をいいます。
 引用と言えるためには、
 ①引用する資料等は既に公表されているものであること
 ②「公正な慣行」に合致すること
 ③報道、批評、研究などのための「正当な範囲内」であること
 ④引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であること
 ⑤カギ括弧などにより「引用部分」が明確になっていること
 ⑥引用を行う必然性があること
 ⑦出所の明示が必要なこと(複製以外はその慣行があるとき)(第48条)
の要件を満たすことが必要です(第32条第1項)。
https://pf.bunka.go.jp/chosaku/1tyosaku/koukousoft/newyogo.html


学会に行くような人は、少なくとも2番から7番の件については 特に問題がないと思いますが、学会で発表されたことは「公表」と言えるのかについては、確認したい人もいるのではないかと思います。それで同じ文化庁のページから「公表」とは何かを見てみましょう。



「展示」が明示されていますから、例えばポスターセッションなどは明確に「公表された著作物」と定義されますよね。つまり無断で引用していいわけです。口頭発表の場合は「口述」が近いようですので、これも同じページの「口述」の定義を見てみましょう。

≪口述≫
 朗読その他の方法により著作物を口頭で伝達することをいい(第2条第1項第18号)、例えば朗読会や講演会における読み手や講師の口述が該当します。
https://pf.bunka.go.jp/chosaku/1tyosaku/koukousoft/newyogo.html

朗読会や講演会が該当するので、学会の口頭発表をもちろん「公表された著作物」と考えることができるでしょう。つまり、ポスターセッションなどで展示されているものや、口頭発表でプレゼンターが発表した内容などを引用してツイートするのは、著作権者に無断で行うことができるのです。

要約してツイートするのは?

ただ、「引用」とするには、先ほどご紹介した要件の4番目に挙げた、主従の関係がちょっと面倒です。 つまり、引用した部分より多く自分の意見などを書かなければいけないわけです。

もしこれがめんどくさいと思った時は、そのまま引用するのではなく要約してしまえば良いのではないかと思います。これも文化庁の説明を見てみましょう。

まず、文化庁の説明では、以下のように要約を公表するには著作権者の了解が必要だとされています。

ダイジェスト(要約)のようにそれを読めば作品のあらましが分かるというようなものは、著作権者の二次的著作物を創作する権利(翻案権、第27条)が働くので、要約の作成について著作権者の了解が必要です。

しかし、これはある程度の長さが必要で、短いものに関しては以下のように著作権者の了解は必要ないと明記してあります。

2~3行程度の極く短い内容紹介や「夭折の画家の美しくも哀しい愛の物語」などのキャッチコピー程度のものであれば、著作権が働く利用とは言えず、著作権者の了解の必要ありません。
https://pf.bunka.go.jp/chosaku/chosakuken/naruhodo/answer.asp?Q_ID=0000338

では、「2~3行程度」というのは何文字ぐらいと考えればいいのでしょうか。日本の最も一般的な A 4サイズの文書としては、1行あたり40文字程度が普通ではないかと思います。3行であれば120文字ですね。だとすれば、日本語では140文字しか書けない Twitter でもほぼ問題ないと思っていいのではないかと思います。「#日本語教育学会大会」という10文字の公式ハッシュタグを入れれば、残りは130文字です。もし心配な人は10文字のハッシュタグをつけた上で、それとは別に10文字残して120文字にしておけばいいでしょう。

ということで、学会で発表された内容を Twitter で共有するのは、引用にしろ要約にしろ全く問題ないのです。発表する側の人は、学会で公表した以上は引用されたり要約されたりする可能性があることを理解しなければなりませんし、それが嫌だったら楽屋裏で話してもらうしかありません。また、学会を運営する側も、法的に根拠のない「無断で引用しないでください」とか「無断でツイッターに投稿しないでください」などという要求を参加者に対してするべきではありません。(特定の学会がそう主張しているというわけではありませんが)

そして何より、学会で発表されるような専門的な内容をツイッターなどで共有することは、間違いなく社会の発展に寄与します。もしその内容に価値があると信じるのなら、むしろ積極的に Twitter で引用や要約を推奨するべきではないでしょうか。次の日本語教育学会大会では、公式ハッシュタグが積極的に使われて、知の共有が進むことを強く希望します。

まとめ

この記事の内容を簡単に言うと以下の通りです。
・学会で発表したものは「公表された著作物」になります。
・公表された著作物は誰にでも無断で引用する権利があります。
・学会に参加している人は、他の人の発表について Twitter で引用することができます。
・Twitter の文字数程度であれば、引用でなく要約でも問題ありません。
・共有されたら困る知的財産は学会で公表しないほうがいいです。
もっと簡単に言うと、撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだってことです。

そして冒険は続く。

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【参考資料】
むらログ: 引用は泥棒ではない
http://mongolia.seesaa.net/article/468447442.html

著作物が自由に使える場合 | 文化庁 http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/gaiyo/chosakubutsu_jiyu.html

著作権法上の引用要件を満たしているのに、かさねて許諾を得る必要はあるのか | STORIA法律事務所 https://storialaw.jp/blog/6114

インターネット著作権問題(こころの散歩道) http://www.n-seiryo.ac.jp/~usui/etc/copyright.html

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