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LLNで映画が「初級」教材に!

冒険家の皆さん、今日も松明の火をともして洞窟の闇の中で宝箱を探してしていますか?

さて、このブログではCBLL(Content-Based Language Learning)という、小説や映像作品を通して第二言語を習得する方法について何度も触れてきました。アニメに限定すれば、「アニメ型独習者」として紹介してきたこともあります。そして、セミナーや講演などでこうした話をする際に、よく聞かれる質問が以下のようなことです。

「でも、ネイティブ向けに作られた作品が理解できるのは、少なくとも中級レベル以上だから、初級では無理ですよね」

これはある意味では正しく、別の意味では正しくありません。

まずどうして正しくないかということ、言うまでもなく初級では理解できないレベルの文も非常に多く含まれているからです。ですから、最初から最後まで全てを日本語で理解しようとすると、たしかに無理です。

しかし実は、そのコンテンツを心から愛しているファンにとっては、それほどこれは大きな問題ではありません。なぜかと言うと、既に自分の母語や他の流暢な第二言語などで、その作品を楽しんでいることがほとんどだからです。つまり自分のレベルでは理解できない表現だったとしても、それがどういう意味なのは知っているので、それほど大きなストレスは感じないのです。そして自分の理解できるレベルの文だけを楽しみ、何周もしている間にだんだん難しいレベルの文も理解できるようになるのです。

とはいっても、これはあくまでも「その作品を心から愛しているファン」という条件がある時だけです。英語やヒンディー語などを身につけなければならない立場の人が、映像作品などのコンテンツを利用してその言語を勉強する場合は、もっと効率的に勉強する方法が求められます。

しかしそれでも、方法はあります。それはその膨大なコンテンツの中から、自分のレベルに合った表現だけを抜き出すということです。これでそのコンテンツを初級用の教材に変身させることができます。

というのも、実はこれは僕が今ヒンディー語の勉強で採用している方法なのです。 僕は今、ヒンディー語を Duolingo と LLN (Language Learning with Netflix) を使って勉強しているのですが、 LLN の有料版では、お気に入りの星のマークを字幕のそれぞれにつけることができます。僕は今自分で理解できるレベルのセリフだけに星のマークをつけているので、この星のマークのついた文だけを表示させると、これが立派な「初級」用の教材そのものなのです。LLN では単語帳に取り込むときにそれぞれのセリフを五つの色から選んで記録することができ、例えば緑色の台詞だけを表示させることもできます。それと同じようにフレーズだけを表示させる機能もあるのですが、これがまさにヒンディー語の「初級」教材に他なりません。

どうしてこれが素晴らしいのかと言うと、LLN では、こうして表示した初級レベルの文の一覧の一つ一つに三角形の再生マークがついていて、それをタップするとその場面が再生されるのです。紙の単語帳をめくっていた時代には、その特定の表現がどのような場面でどのような感情で使われていたかを再現するには、自分の記憶に頼るしかなりませんでした。しかし今では、それをプロの俳優が感情を込めて表現してくれるのです。紙の単語帳に比べてずっと印象的で、はるかに強く記憶に残すことができます。

ただ、今のところまだ一つだけ問題があります。それは、膨大なセリフの中から、初級レベルの文だけを選び出すのがかなり非効率だということです。もちろんその映画が好きで、好きだからこそその言葉を勉強したいという人ならそれでも問題ないのですが、僕のようにまずヒンディー語を習得しなければいけないという理由で映画を見ている立場の人間にとっては、やはりここはもう少し効率化したいところです。そしてこれはまだ現在の ICT のレベルではそう簡単に実現できることではありません。

しかしそう考えてみると、もしかしたらここに人間の教師の役割があるのではないでしょうか。そういう人にはまだ巡り会えていないのですが、もしヒンディー語の先生で僕のヒンディー語のレベルをよく知っている人が、例えば『バーフバリ』のような映画を見ながら、僕のレベルで理解できるセリフに星のマークをつけていくのです。 後は僕が何度もその映画の最初から星マークの付いたセリフの所だけを順番に再生していきます。

一斉授業の先生だったら、『鬼滅の刃』でも何でもいいのですが、とりあえずそれほど好き嫌いの分かれない一般的に人気のあるアニメを選んで、 そのセリフの中から同じように初級のものだけに星のマークを付けるのはどうでしょう。そして授業中に、 その台詞を一つ一つ表示させていくといいのではないかと思います。

なお、先日の佐久間さんのブログに書いてあった「コピーイング」という練習方法と、こうしたCBLLは非常に親和性が高いです。LLNでは、オートポーズ(1つのセリフが終わったら自動的に一時停止する機能)をオンにした上で、キーボードの「S」を叩くと、そのたびに同じセリフを何度も繰り返して再生することができます。短いセリフなら10回も再生すればかなり自然にその役を演じている俳優さんとぴったり同じタイミングでその台詞を言うことができるようになります。というよりも僕自身もそういうことを楽しみながらやっています。楽しくて1時間ぐらいすぐに経ってしまいます。

確かに CBLL は初級者にとってはあまり効率的な学習方法ではない時代もありました。しかし、今ではこのようなツールを使えば、お気に入りの映像コンテンツを「初級」専用教材に変身させることができるのです。ぜひ皆さんも中世の英雄や絶世の美女になりきって語学を身につけてください。

そして冒険は続く。

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【参考資料】
むらログ: YouTubeを語学教材にする拡張機能「LLY」(2020年6月27日) http://mongolia.seesaa.net/article/475952184.html

むらログ: 教材に辞書が組み込まれている時代 (2020年8月2日)
http://mongolia.seesaa.net/article/476629405.html

むらログ: 独習者の3つのタイプ 「アニメ型」(2017年9月29日) http://mongolia.seesaa.net/article/453831491.html

むらログ: CBLLで第二言語学習の優先度を上げることができる実例 (2019年6月3日)
http://mongolia.seesaa.net/article/466181676.html

むらログ: CBLLのハック2つ (2018年2月4日)
http://mongolia.seesaa.net/article/456661252.html

むらログ: 病人のための言語習得方法、CBLL (2019年の5月20日)
http://mongolia.seesaa.net/article/465787060.html

むらログ: 忙しい人の英語学習にはテレビドラマでCBLLがおすすめ (2019年4月30日)
http://mongolia.seesaa.net/article/465446446.html

むらログ: ハンガリーの冒険家、エメシュさんインタビュー! (2017年3月19日)
http://mongolia.seesaa.net/article/448133753.html

むらログ: 補助ツールがあると身につかない?(2019年3月4日)
http://mongolia.seesaa.net/article/464457617.html


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