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即興型スピーチコンテスト

冒険家の皆さん、今日もラクダに揺られて灼熱の砂漠を横断していますか?

さて、皆さんは即興型スピーチコンテストというイベントに参加したことはありますか。

僕もこれまで一度もなかったのですが、4月9日に 審査員として参加することができました。 これはバンガロールで行われている「ジャパンハッバ」という日本文化祭の一連のイベントのうちのひとつです。

このイベントは非常にたくさんのインドの日本文化に関心を持つ人たちが運営に関わっていて、特にこの即興スピーチコンテストの運営にはタルンさんという人が中心的な役割を担っていました。

彼がどこからこの即興型スピーチコンテストのアイデアを持ってきたかと言うと、 実は「トーストマスターズ」です。 トーストマスターズというのは、世界中に広がっているグループで、 一般的には司会者の練習をする集まりだと認識されているのではないかと思います。

僕自身も名前は昔から聞いていたのですが、 カナダにいた時にとあるイベントの来賓の中に、一人非常に英語の挨拶のうまい日本人がいたのが、僕がトーストマスターズに関心を持つようになったきっかけです。

彼は単に英語が上手というだけではなく、ジョークで爆笑させたり、少しホロリとさせたり、 カナダ人の普通の英語の母語話者よりも、ずっと印象的なスピーチでした。

それでイベントが終わった後に、 「どうしてこんなにスピーチが上手なんですか」と聞いてみたら、彼が教えてくれたのがトーストマスターズだったのです。

それで僕自身もその後いろいろ調べてみて、実は僕の当時の職場にもトーストマスターズのクラブがあることがわかりました。その当時はカナダのエドモントン州の教育省で働いていたのですが、その教育省の中にもトーストマスターズのクラブがあったのです。

それで僕も自分の英語の練習のために参加してみようと思ったのですが、話を聞いてみると入会するのに1000ドル以上かかってしまうということが分かって、躊躇してしまいました。

そこには「僕の英語力でネイティブの皆さんと一緒にこれをやれるのか」という不安も今から思うとあったとは思うのですが、それでも無料だったら、「だめでもともと」という感じで参加してみたかもしれません。

さてこのトーストマスターズは たまたま僕が働いていた職場にもあったぐらいですから、世界中のどこでも見つけることができるのではないかと思います。もちろん僕が今住んでいるバンガロールにもインターネットで検索してみるとありますし、日本にも「トーストマスターズクラブジャパン」という 団体があって、そこのウェブサイトを見てみると214のクラブがリストに載っています。そのうちの一つはオンラインなので地元にトーストマスターズクラブがない人でも参加できるのではないかと思います。

さて、即興スピーチコンテストからちょっと話が離れてしまいましたが、実はこのトーストマスターズには色々な練習方法があって、そのうちの一つが「テーブルトピックス」というものです。

それで関係するビデオをYOうTubeでいくつか見てみたのですが、 どれも共通しているのはスピーカーが壇上に上がってからくじ引きのくじを差し出されて、 その紙に書いてあったトピックについて話すというパターンです。

そして準備をする時間もなく、いきなりスピーチを始めます。90秒が目標で、60秒だと短すぎ、120秒だと長すぎて減点されることもあるようです 。

そして出場者の全員が話し終わった後で、皆で投票して勝者を決めるというパターンのようです。つまり毎回この即興型スピーチコンテストを身内でやっているようなものですね。

しかし多くの人が想像することだと思いますが、これを外国語でやるのは本当に難しいことだと思います。 なぜかと言うと外国語副作用というものがあるからです。これについては以前にこのブログでも書いたことがあるので ご関心のある方はこちらのリンクでご覧ください。

むらログ: 日本語学習者の思考力は低いのか http://mongolia.seesaa.net/article/456899259.html

簡単に説明すると、 くじ引きで与えられたトピックについて何を話すかを考えている間に、文法や語彙について考えることが非常に難しいからです。

普通のスピーチコンテストでは、内容について考える時間と、それをその外国語で話すために文法や語彙などについて考える時間を分けることができますが、このテーブルトピックスや即興型スピーチコンテストではそれを同時にしなければならないわけですね。

僕は平日のほぼ毎朝ツイッターのスペースで音声配信をしていますが、それでも30分ぐらい前から話す内容のメモなどを作っていて、そのメモに従いながら、しゃべっています。

つまり母語で話しているときでさえ、その内容についてはあらかじめ準備してから本番でそれを言語化するという行動をしているわけですね。

ですからこの即興型スピーチコンテストに外国語で参加するということは本当に勇気のいることだと思います。

さて、実際に審査をしてみて驚いたことがもう一つあります。 それは参加者の中に共通する特徴があったということです。

ある男性の参加者は、自分のことを「私」でも「僕」でもなく「俺」と呼んでいました。

また、別の参加者は、可愛い猫の写真を見て「めちゃ可愛い」と言っていました

さらにまた別の参加者は大きな波の写真を見て「でかい波」と言っていました。

ちなみにこの即興型スピーチコンテストでは じに書いてある日本語が分からなくて困ってしまうことがないように、言葉ではなくスライドを見てそれについて話すという形式になっていました。一つのスライドに3枚ぐらいの写真やイラストが含まれているパターンでした。

さてこのように「俺」とか「めちゃ」とか「でかい」という言葉を使う参加者が多いということは何を意味するのでしょうか。

皆さんもご想像の通りだと思いますが、 これらの行為は、一般的な日本語の教科書には載っていません。少なくとも初級の教科書には載っていないでしょう。

インドで一番普及しているのは「みんなの日本語」ですが、 そうした教科書で勉強していないことは明らかです。

つまりこうした参加者は学校で勉強しているのではなく、日本のドラマやアニメや漫画やゲームなどから、日本語を勉強しているのだと想像することができます。

こうしたことは、これまであまりインドでは報告されていなかったのですが、僕の本などでは、 何度も書いている通り、世界中でこれまで起きてきたことです。

特に印象的だった年は2013年で、オランダやハンガリーやチェコやカザフなどの多くの国の日本語スピーチコンテストで、日本語学校で勉強したことがない参加者が、一斉に優勝カップをさらい始めたのです。

これは当時の日本語教育関係者には非常に衝撃的なことで、それまで僕が話をしていた「冒険家メソッド」について「そんなことあるわけねーだろ」という対応がだんだん「村上が言っていることは案外本当かもしれない」という風に変わってきた大きな節目となりました。

さて、インドは2018年から19年の間にインターネット普及率が一気に20%も増えるようなまさに急激な変化の段階にあります。

2013年の頃に起きなかった大きな地殻変動が今インドで起き始めているといってもいいでしょう。つまり2019年ぐらいに爆発的に普及し始めたインターネットによって、日本語のコンテンツがインドでも簡単に楽しめるようになり、 その頃から日常的に日本語のコンテンツを楽しんできた人たちが数年経って、日本語の習得を果たし、こうした表舞台に立ち始めてきたのではないかと思っています。

これからはインドでも2014年2013年以降に起きた大きな変化が 見られるのではないかと期待しています。そしてそれに対して日本語教育側がどのように対応できるかも、今後のインドの日本語教育の発展のための一つの試金石となるでしょう。




そして冒険は続く。

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