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いい努力と無駄な努力

冒険家の皆さん、今日もラクダに揺られて灼熱の砂漠を横断していますか?

さて、「日本語の教科書に準備の必要な教科書とそうではない教科書がある」という話をすると、「楽をするのは良くない」というような反応がとても多いです。例えば、最近の「みんなの日本語」をめぐる議論でもそうです。この本はもともとオーディオリンガルの教科書なので、コミュニカティブな能力も育成しようとすると、情報差のある会話の練習や、何を言うかがもとから決められていない練習などをする必要があります。このような練習は「みんなの日本語」には含まれていないので、教師が自分で準備しなければいけません。また、「教え方の手引き」を見ればわかりますが、文字カードなども教員が大量に準備しなければいけません。たとえば『みんなの日本語』の教え方の手引を見ると、第4課では以下の物が必要です。

時計(針が動かせるもの)
時間を書いた文字カード
絵教材N25
空港などにある世界の時刻を示した地図
カレンダー
予定表
クエスチョンマークのカード
絵教材「起きます」
絵教材「寝ます」
絵教材V6「終わります」
絵教材V5「勉強します」
絵教材V4「休みます」
絵教材V3「働きます」
(アナログな学校の場合は、「これらを元の場所に戻す」という更に無意味な作業が必要になります)

その一方で、教科書のページを最初から順番にやっていけばその他にほとんど準備のかからない教科書も今ではたくさんあります。しかし、「そうした教科書で楽をするのはよくない」と思っている先生方がずいぶん多くいらっしゃるようなのです。

これは、もちろん違います。なぜかと言うと、準備時間を削減すると、もっと質の高い教育ができるようになるからです。

例えば個人面談があります。教師と学習者が一対一で話し合うので、これはとても時間がかかります。しかし、コース終了後のアンケートではいつも個人面談の評価はとても高いので、僕も教育関係者の皆さんにはいつも個人面談をすることをお勧めしています。先日終わった南インドでの日本語のプロジェクト学習のコースも、事後アンケートでは回答者の全員が個人面談について「とても満足している」と回答しています。そもそも教育は人間が相手の仕事なのですから、教師が一人ひとりの学習者に真摯に向かい合うことが、絵カードの準備などよりはるかに重要であることに異論はないでしょう。

しかし、もし先生が古い教科書を使っていて、コミュニケーションの練習なども全部自分で準備しなければならないとしたら、そのような時間は作れませんよね。実際に、僕のツイッター上でのアンケートでは、個人面談を必要だと思っているのにやっていない人が回答者の6割程度を占めています。

「個人面談に関するアンケート」
https://twitter.com/Midogonpapa/status/1366900768888872963

そして何より、自分で勉強する時間は取れていますか。以前僕がTwitter で行った別のアンケートでは、「みんなの日本語」がオーディオリンガルというもう何十年も前に廃れた教授法を前提にしているということを知っている人は、回答者の3割ほどしかいませんでした。これは本当に危機的な状況です。
https://twitter.com/Midogonpapa/status/1337553817588514817

他の教科書だったらやらなくても済むような準備をさせられていて、そのおかげで個人面談も、自分の勉強もできない状況になっているのだとしたら、準備時間を減らすことは今すぐ業界をあげて取り組まなければならない喫緊の課題です。無駄な準備の必要な教科書を変えることは他の何よりも大事です。

準備時間を削減することは「さぼり」ではありません。それは、「いい努力」をするために必要不可欠な解決方法なのです。

そして冒険は続く。

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【参考資料】
箕輪厚介「"疲れた=仕事した"と洗脳されるな」【やめてよかった悪習慣#2】
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