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オンラインで友達は作れる。それは教師の義務

冒険家の皆さん、今日もラクダに揺られて灼熱の砂漠を横断していますか?

さて、昨日「明生日本語講演会」という講演会に読んでいただいて話してきましたので、ここに簡単に記録しておきたいと思います。後で動画も公開されるそうですから、一般公開になったらこの記事の中に埋め込んでいきたいと思います。

まずスライドはこちらです。

上記の埋め込みが表示されていない場合はこちらのリンクを開いてください。
https://bit.ly/meisei0905

スライドを見れば大体の話の内容は分かると思いますが、一応補足も兼ねて流れを説明しておきたいと思います。

僕は一番関心があるのはソーシャルメディアなどを使って自律的に日本語を習得している人たちの学び方です。でも、実は日本語教師のオンラインネットワークづくりもライフワークのような形でやってきています。1995年にインターネット以前のパソコン通信という電子的なネットワークに入って、日本語教師がおおぜい参加していた日本語フォーラムと言うコミュニティの運営委員などをしていたこともあります。

当時の運営委員は日本語教師から離れてしまったり、あるいはもっと出世してしまってオンラインで発信するどころではないというような人もいたりします。それで、当時からこういうオンラインの日本語教師のネットワークづくりをずっとやっているのは、ふと周りを見渡してみると僕以外にあまりいないんですよね。

今回は学習者のオンラインのコミュニティづくりがテーマなのですが、もしかしたら、僕にとっては普通の当たり前のことが、他の人にとってはほとんど経験がないことか、少なくとも僕ほど経験がないことなのかもしれないと思いあたりました。

今回の講演会では最初に簡単に自己紹介と大体の予定をお知らせした後、前日の #Zoomでハナキン0904 のトラブルについてご紹介しました。ご参加になった方はみなさんご存じだと思いますが、僕の自宅のインターネット回線速度が極端に落ちてしまって、 Zoomにログインすると10秒ぐらいで途切れてしまうという状況がずっと続いていたのです。しかし大変ありがたいことに、香港の望月さんやカンボジアの佐久間さんなどの協力のお陰で、僕がいなくてもイベント自体は予定通りに終わることができたそうです。

これがまさにオンラインコミュニティの力なんですよね。コミュニティがしっかりしていればホストがいなくても、活動を持続することができるんです。しかも香港の望月さんやカンボジアの佐久間さんとは実際に僕は対面したことがありません。(間違ってたらすみません) 少なくともオフラインで対面したかどうかがよく分からない程度に、オンラインでラポールを築くことはできるのです。

これについては以前も別の例を以下の記事で書いたことがあります。

「むらログ: ラポールの形成にオフラインの対面は不可欠か」
http://mongolia.seesaa.net/article/377499875.html

この記事では瀬尾匡輝さんのとても象徴的な以下の言葉を紹介しました。

「あー、村上さん、お久しぶりです。・・・あれ、もしかしたら会うの初めてでしたっけ?」

これは7年も前の記事なのでZoomはまだ使っていませんでしたが、 Google Hangout などのテレビ電話で何度も顔を見ながら言葉を交わしていたりすると、オンラインかオフラインかなんていうことはどうでもよくなってくるのです。スキンシップができないので恋人とかにはならないかもしれませんが、少なくとも一緒に冗談を言ったりするぐらいの友達になることは簡単にできるのです。

実際に昨日のたった2時間の講演会の間だけでも、以下のようなコメントを頂くことができました。

(あかねさん、ありがとうございます。)

そこでようやく本題に入るのですが、この講演会で僕が言いたかったのは次の一点に尽きます。それは

「オンライン授業で友達は作れる。それは教員の義務」

ということです。

それで最初にやってもらったのは、まず名前を表示してもらって、知り合いがいたらプライベートチャットでその人にメッセージを送ってもらうということです。

プライベートチャットはホストなど他の参加者には見えませんから、教育とは情報を教師から学習者にコピーするだけだと思っている教師にとっては、邪魔でしかありません。中にはプライベートチャットを禁止している教師もいるそうです。しかし、学習者コミュニティなどの環境を整える重要性をきちんと理解している教師にとっては、プライベートチャットはむしろ歓迎すべきことでしょう。

前回のブログでも「オンライン授業だと隣の人にわからないことを聞けない」という誤解について紹介しましたが、 きちんと学習者コミュニティを作りプライベートチャットも歓迎するような教師であれば、そのようなことは絶対に言わないはずです。その意味で「オンライン授業だと隣の人にわからないことを聞けない」というのは、かなり初歩的な段階での授業設計の失敗です。

といっても人間ですから誰でも失敗してしまうことがあります。僕自身も前回のハナキンではポストでありながらネットから落ちてしまうということをしでかしました。 しかし、 「オンライン授業だと隣の人にわからないことを聞けない」と認識している人達にとっては、それが失敗であるだけではなく、「オンライン授業のせいである」=「自分の授業計画の失敗ではない」と認識していることに大きな問題があります。つまり失敗しているだけではなくて、失敗であるという認識すらないのです。「学習者同士の対話などはこれまで求められてこなかった」などというような発言も何度か目にしました。

しかし、このブログでも何度か触れましたが、「学習者同士の対話はこれまで求められてこなかった」というような認識も事実ではありません。 国民的な議論を重ねて中等教育審議会は学習者同士の対話などが求められているということを明記しています。講演会では他に福沢諭吉やアインシュタインやヴィゴツキーなどの発言も紹介しました。 教育に関わる僕たちには社会から学習者同士の対話が生まれるような環境を作ることを求められてきているのです。

講演会では実際に学習者コミュニティを育てている日本語教育関係者の発言などもいくつかご紹介しました。

ここまでが僕のしゃべりの部分で、この後は基本的に色々なことを参加者の皆さんに体験していただきました。

まず最初にやっていただいたのは自己紹介です。ただ一人一人が自己紹介の文章を記入したりしても、200人近い人たちの文章を読むのは大変ですし、 効率的に自分と共通点のある人を見つけるのは大変ですから、今回は Padlet に僕の方から37個ぐらいの条件を書いて、それに該当する人は名前などを書いてもらうような形にしました。実際の例はこちらをご覧ください。

https://padlet.com/murakami_yoshifumi/tcd2icrd77t01by1

ご覧になれば分かると思いますが、これで例えば僕の他にMakieさんという人が剣道をやっているということがわかります。講演会では話しませんでしたが、こういう時にキーボードのコントロールキーとFキーで「makie」と検索すると、この人が驚くべきことに実はカナダやベトナムやエジプトなど僕の住んでいた国に住んでいたことなども分かります。(すみません、実は妻です(^^))

僕はあまり気にならないのですが、シャイな人の中には、いきなりカメラとマイクで知らない人と話すのはきついという人も結構な割合でいます。それでそういう人のために今回は、「共通点のある人にプライベートチャットで挨拶してください」という活動も入れました。でも今考えてみると、もしかしたら顔が見えない人にプライベートチャットを送る方が敷居が高いと思う人も中にはいるかもしれませんね。

これで一応、一対一の文字ベースのコミュニケーションは成立したということにして、次はいよいよブレイクアウトルームで顔を見ながら言葉を交わす段階です。これはハナキンに参加されている人にとってはもうすっかり慣れていると思いますが、共同ホストになるとブレイクアウトルームの間を自由に移動できるので、 先ほどプライベートチャットを送った共通点のある相手を見つけてその人と話すということができるようになります。

ちょっと想定外だったのは、連絡先をお互いに交換するという活動だったのですが、話が弾みすぎて交換するのを忘れたという人が大量にいらっしゃったことです。まあでもこの講演会のイベントでは実際にオンラインで友達が作れるということを体験していただくことがテーマなので、それはそれで良しとすることにしました。

この「Padlet →プライベートチャット → ブレイクアウト」という流れはこの講演会のために考えたのですが、それとは別に教育の現場で使われそうな方法は他にもいくつかあるので、次に以下の言葉についてご紹介しました。

1.ワールドカフェ形式
2.EdCamp
3.#Zoomでハナキン
4.QFT(Question Formulation Technique)
5.パートナー方式(マーク・プレンスキー)

これも僕が一方的にしゃべってしまえば時間はかからないのですが、それでは誰も覚えてくれないので、ここでもブレイクアウトルームに分かれてもらって、知っている人がいれば知らない人に説明し、知っている人がいなければ検索するという活動にしました。これは実はまさに5番目のパートナー方式そのもので、パートナー方式では教師は学習者が知らなければならないことを定義や質問するだけで、後は学習者が自らそれを調べるのです。

うまく見つからなかった人は、これらのキーワードに加えて「むらログ」で検索すると、これらはどういうものなのかはすぐに分かるでしょう。 (すみません、ワールドカフェについてはあまりブログでは書いたことはなかったようです)

ハナキンについては、イベントにはもう何百人もの人が参加してもらっていますが、実は授業で使えるということをあまり考えている方は少なかったようだったので、cocoさんの「クラスでハナキン」 というアイデアについての投稿もご紹介させていただきました。cocoさん、ありがとうございます。

ここまではどのような科目でも使える方法ですが、今回は日本語教師の方が多いと思われましたので、語学教育に特化した方法もいくつかご紹介しました。

ペア・ワーク
ピア・リーディング
 ジグソー・リーディング
 プロセス・リーディング
ピア・ライティング(ピア・レスポンス)
「インド映画祭を見に行く」
「終電後の駅前タクシー乗り場」

最後の二つはあまり一般的な方法ではありませんが、「#ブレイクアウトの大冒険」という名前で、以前オンラインでボランティアを募ってやらせて頂いたことがあります。その時の記事を以下にご紹介します。

「むらログ: #ブレイクアウトの大冒険
http://mongolia.seesaa.net/article/473275599.html

これはこのブログを書いた時の思いつきで、実際に日本語の授業でやったことはなかったので、このような講演会や研修会でこうした活動例を皆さんにご紹介できるのも、この時ボランティアで参加してくださったみなさんのおかげです。改めて皆さんにお礼を申し上げたいと思います。

今となってはちょっと古い考え方ですが、コミュニカティブアプローチでは、このように学習者の全員が自由に席を立って移動したり、オンラインの場合はブレイクアウトルームの間を自由に移動したりして活動を行うには、大量のインフォメーションギャップが必要です。ペアワークであれば2枚のロールカードを作ればいいだけですが、 こうした活動では基本的に全員が別々のロールカードを持っていなければいけないので、ICT を使って自動的に大量のロールカードを生成しなければいけません。これもエクセルなどを使えば簡単なので、ご関心のある方は以下の記事をご覧ください。

「むらログ: インフォメーションギャップを超簡単に作る方法」
http://mongolia.seesaa.net/article/46415744.html

「むらログ: 情報の断片を集めて完成させるタイプのバラバラ練習用テンプレート」
http://mongolia.seesaa.net/article/47178158.html

講演会の内容としてはここまでで、最後にもう一度、皆さんに僕が言いたかったいちばん大事なことをお伝えしました。最初にも書きましたが、それは以下のとおりです。

「オンライン授業で友達は作れる。それは教員の義務」

もしこういう認識のなかった方が、昨日の僕の話を聞いて(というより、講演会での自らの体験によって)、少しでも同じように考えてくれるようになっていただけたら、2時間という短い時間だけでも関わることのできた一人の人間として、とても嬉しいです。

そして冒険は続く。

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【参考資料】
学校法人朝日学園 東京明生日本語学院のプレスリリース https://www.value-press.com/pressrelease/251494

スライド
https://bit.ly/meisei0905

むらログ: オンライン化したから友達がゼロ?
http://mongolia.seesaa.net/article/476871239.html

むらログ: 友達ができないのはコロナのせい?
http://mongolia.seesaa.net/article/476928506.html

むらログ: 学習者同士を友だちにできない先生方へ
http://mongolia.seesaa.net/article/477059150.html


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